
気が付くと海岸にいた。
ここ「GEALMAリゾート」は緻密にコンディショニングされた環境であった。照りつける太陽、乾いた珊瑚の砂浜、ブルーグリーンの海、亜熱帯の植物達。それは全てバーチャルスペースにはない本物の匂いがする。ただ生物たちは海中陸上を問わず、巻き貝から昆虫に至るまで意図的に配置されたものだけしか生存していなかった。
ドラッグの快い麻痺から覚醒するにつれ、ハートマンは自分がなぜここにいるのかを考えようとしたが、彼のバイオリストコンピュータはその答えを探せずにいた。大脳へのアクセスパルスを遮断されているのだ。
砂浜を駆ける足音に振る返ると、数人の少女が水着で水をはねとばしながら楽しげに遊んでいる。
「おーい、ねぇきみー。」
ハートマンは手を振りながら少女達に走り寄った。
「君たちはどこから来たの?ホテルは?」
訪ねても少女達は笑っているだけで何も答えない。だが警戒している様子も全くない。屈託のない笑顔だ。みんなでハートマンを囲み、水際まで連れて行こうとする。
少女の一人が手で水をすくいハートマンの体にかけると、それに同調するかのように全員で水掛ごっこが始まった。そう言えば俺はいつ水着に着替えたんだっけ?
「おいおい、何をするんだ。」
両手で顔をガードしながらハートマンは、最初に水掛を始めた少女に聞いた。
「どこかこの辺に外部と連絡できる場所を知らないかい。」
少女達はみんなでマングローブに似た植物の林を指さすと、互いに顔を見合わせくすくすと笑いながら走り去って行った。
照りつける日射しの中、ピチピチと健康的な体をぶつけ合いながら遠ざかって行く少女達を見送ってしまうと、どこまでも続く美しい海岸にたった一人残された自分がいた。 つづく