宇宙(ひろし)の夢 4日目

ハートマンは情報収集のため、一人サイバークラブにいた。
客は全てアンドロイドか異星人のようだった。バーテンが機械的に広げてみせるメニューに目をやる。いつものメニューだ。

「ギガトリップ」これは合成体液を送り出すバイオポンプを縮小させ、思考回路に届くイオンの状態を狂わせる。脳は異常を快復しようと通常発信しないパルスを断続的に出力するようになる。アンドロイドにとってこの不安定な状態がある意味の陶酔感に変わるのだ。

「ミクロバギー」これは培養された細菌の一種だ。無防備な体内にはいると猛烈な勢いで繁殖する。そのときアルコールに似たエネルギーと性的興奮を起こすホルモンを多量に放出する。こいつをやっているアンドロイドは決まって汗をかき、目をぎらぎらとさせている。免疫システムには弱いので一定時間のタイマーを組み込んだ免疫抑制剤をドリンクに混合して使っている。

「トリプルチューン」合成脳細胞専用なので今はあまりやっているやつはいないが、一昔前は人間の間にもアンダーグラウンド市場でかなり流行った。不快な感覚を全てシャットアウトしてしまうレセプターが主成分の薬(ヤク)だ。時間とともに非常にハイな気分になり際限がない。限度を越すと戻れなくなる。これが爆発的に出回った頃、数百万の宇宙人が引きつった笑い顔のまま命を落とした。

人間用のまともな奴はないのかい。

「バイソン、新入荷」と太書きしてある。おう、ここにもあったか。通称「はらっぱ」と呼ばれる酒だ。合成アルコールに地球のバイソン草で香りをつけたものだ。本物のバイソン草なら香りも格別のはずだ。
これはいいぞ。とりあえずフローズンでそれを注文する。 隣ではもうべろべろにラリっちゃってるおやじ宇宙人が、格安の分離合成酒「ヘッピィもう一杯トゥーフィンガーでくれ。」と、くだを巻いている。

ここに情報は何もない。約束の時間だ。店を出て指定の場所へ向かう。