任務に就いたハートマンは情報に基づいて現地のリゾートホテル、アロアワイハークラブに潜入していた。地球のハワイを模して作られたエリアだ。

客はまだ少なかった。控えめな照明と落ち着いたテーブル。熱帯性の植物を多用したインテリア。小さいがプールも設置してある。任務でなければきっとくつろげるに違いない。こんな場所で何が起きるというのだ。

「全く快適じゃないか。」つぶやくハートマン。
穏やかで開放的な空間。ただ音楽だけがBGMの域を超えて不自然に大きかった。

ドラムの音に紛れて何者かのハンディウエポンが炸裂した。ハートマンの耳元の空気を切り裂きながら床とソファーに数ミリの焼き焦げを作った。
わずかに煙が上がったが、部屋のオートコンディションシステムは「ノープロブレム、何でもありません」とアナウンスを繰り返す。

不自然に動く敵を探し反撃の機会を待つハートマン。
フロアーで作業をするメイド、ウエイターは皆アンドロイドなのか、自分のサービスだけをプログラムされているらしい。何事もなかったかのように任務を実行している。

激しい音がしてウエイターの掲げていたワインクーラーが粉々に砕け散った。ウエイターは一瞬、今までそこに存在していたワインのバランスをとろうと両腕と視覚装置をフル稼働したが、消えてしまったワインに疑問を持つこともなく数秒後そのまま歩き去った。

ハートマンからの緊急連絡で本部の戦闘セクションから武装ヘリが救援に向かった。
ヘリが到着する前に決着を付けよう。ハートマンのピストル型ハンディウエポンは彼の思考波を受け取り、セイフティモードからオートマティック攻撃モードに切り替わった。

ハートマンの携帯する武器(ハンディウエポン)は彼が攻撃すべき敵を認知し、衝撃の規模を思考しただけで直ちにエネルギーを発射できる。指で引き金を引く筋肉運動より遙かに早い神経伝達のスピードで反応するのだ。敵に対峙した時、攻撃スピードの差は多くの場合勝敗を左右する。
衝撃は、軽い脳しんとうを起こさせる程度の最小ショック1レベルから、小型のスペースギアなら軽く蒸発させてしまうショック9レベルまでをイメージするだけでよい。

数分もしないうちにヘリの音が近づく。
サーチライトがハートマンの姿を捕らえ、探査レーザーの青白い光が扇状に部屋の内部を照らし始めた時、ハートマンから敵の気配は消えてしまっていた。     つづく