本の日1日店長の際、
選書棚を作らせていただき、

今回、所沢のダ・ヴィンチストア内でも
私の選書棚コーナーを
設置していただきました。

この機会に、
今回の選書を紹介させていただこうと思います。


**** 以下 敬称略 ****

大垣書店イオンモール桂川店
1日店長の際に寄せたコメント

[はじめに]

近年『読書』について質問されることが増え、私自身、あらためて『読書』について考えるようになりました。

『物語を堪能する』ということは、映画やドラマにアニメ、漫画でもできることです。エンターテインメントとして勝負をした場合、敵わないかもしれません。小説は文章のみ、二次元にも到達していないともいえるのですから……。
 
ですが、そこが、小説の素晴らしいところで、小説にしかできない楽しみ方があるのです。
読者が各々読んだ文章を、頭の中でイメージしていくという作業です。
 
物語の中に出てくる主人公の部屋、通っている学校の様子、帰りに友人と立ち寄った鬱蒼とした廃墟――こうした場面を読み、思い浮かべる光景は十人十色で、たったひとつしかない自分だけのイメージです。
 
著者が書いた文章を、読者は読んで、各々の脳内で世界を構築していく。小説を書いたのは著者ですが、読者も物語を作っている。つまり著者と読者の二人三脚で、小説は完成となるのです。
 
それが読書で、他では得られない特別な体験であり、満足感だと思います。
 
ぜひ、読書をして、自分が作ったイメージの世界への旅を楽しんでいただけたらと思っています。

 
[1日店長*望月選書]

テーマ①
特殊設定ミステリのススメ

特殊設定ミステリとは、SF や ファンタジー 、 ホラー などの設定を用いて現実世界とは異なる特殊なルールを導入したミステリー作品。ミステリーはちょっと苦手かも、という方から、普通のミステリーは読み飽きたという方にもおすすめです!
 

『楽園とは探偵の不在なり』
著・斜線堂有紀 早川書房
 
特殊設定➡︎ある日突然地上に天使が降臨し、殺人者を裁くようになった世界。

天使は、二人以上殺した者を即座に地獄へと引きずり込む。

これは絶対的な揺るぎないルール。
そこで、起こった館での連続殺人!
探偵・青岸がその真意に迫る!
 

望月感想➡︎『私が大好きな小説家を殺すまで』や『恋に至る病』といった傑作を生み出した斜線堂有希さんのとびきりな特殊ミステリ。

天使と聞くとキラキラしたイメージですが、この世界に登場する天使は、コウモリのような羽を持ち、全体的に灰色で、目鼻がないのっぺらぼうという気色の悪い姿です。

二人以上殺した者は必ず天使につかまって、地獄に引きずり込まれる。

そうなった時、「では一人だけなら殺しても良いのか?」といった謎のルールまで生まれてくるようになる。

そこで発生した、連続殺人。その真相が気になって、一気読みでした。
映画化してもらいたい、と心から思った作品です。
 
 
むかしむかし、あるところに死体がありました。
著・青柳碧人 双葉社
 
特殊設定➡︎皆が知っているむかし話、一寸法師、花咲か爺、鶴の恩返し、浦島太郎、桃太郎の世界が舞台。

一寸法師の話を少しご紹介。
一寸法師の活躍で、右大臣家の姫が救われ、めでたしめでたしとなっていた頃、村である男の変死体が発見された。
その男は、右大臣の隠し子で、右大臣の後継者。
そして、一寸法師とも知り合い。つまり一寸法師にとって、邪魔な存在である。
男を殺したのは、一寸法師ではないか。だが、男が死んだ頃、一寸法師は鬼の腹の中だった。
この真相はいかに?
 
望月感想➡︎知っているストーリーを深読みして、膨らませていくと実はこんな事件が潜んでいた!?と思わず感心してしまう、どのお話もとても親しみやすい設定。

むかし話モチーフと侮ることなかれ、実はかなりの本格ミステリでもあるんです!
これはアニメになってほしいな。
CMのノリで、ドラマでも面白いかもしれない。
なんて妄想まで膨らむ作品です。

 
テーマ②
胸に響く文芸作品のススメ
 
時々、胸に突き刺さり、人生観にまで影響を与える作品に出会ってみたい。
そんな想いを抱くことはありませんか?
今年読んで、私の胸に強く残った二作を紹介したいと思います。
 
 
正 欲
著・朝井リョウ 新潮社
作品紹介➡︎人とは違う『性欲』を持っている。自分は普通ではない。
そんな者たちの葛藤と暴走、そして孤独を描いた作品。


望月感想➡︎「多様性を認めよう」という声をよく聞くようになった昨今。
その言葉のどこかキラキラした雰囲気を切り裂いて、投げ捨てるような、自分の思い込み、「普通」という感覚の横暴さを突きつけられたような一作。
何より、人は一人きりでは生きられないんだな、とも思わせられた作品でした。
 
 
スモールワールズ
著・一穂ミチ 講談社
 
作品紹介➡︎夫婦円満を装う主婦と、家庭に恵まれない少年。「秘密」を抱えて出戻ってきた姉とふたたび暮らす高校生の弟。初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。人知れず手紙を交わしつづける男と女。向き合うことができなかった父と子。
大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。

そんな彼らを丁寧に描いた短編連作集。
 

望月感想➡︎6作からなる短編連作なのですが、一作一作がまるで違う雰囲気が違い、同じ人が書いたとは思えないほど。

どのお話もグッと心をつかまれ、そして余韻を残してくれました。文芸作を読むのはハードルが高いと感じる方も、読み慣れた方にもおすすめしたい作品です。
 
テーマ③
「読書は楽しい」を体験できるシリーズ作品
 
色々あるけれど、読書をすると現実を忘れられる。夜寝る前に読みたい。うんと楽しい読書体験をしたい。それなら長く楽しめるシリーズ作品がいい!
そんなあなたにオススメ作品。

〈ビストロ・パ・マル〉シリーズ
著・近藤史恵 東京創元社
 
作品紹介➡︎カウンター7席、テーブル5つの小さなフレンチレストラン『ビストロ・パ・マル』。そこで働く従業員たちと、洞察力と推理力に優れたシェフの物語。
 
望月感想➡︎頭の中で自分だけの世界を構築するのが、読書の醍醐味――と先でお伝えしましたが、近藤史恵先生の『〈ビストロ・パ・マル〉シリーズ』は、読んでいて五感のすべてを脳内で体感できる、そんな気がする作品です。

小さなフレンチレストランで起こる、ちょっとした謎解きの物語なんですが、店内での掛け合いやシェフの鋭い推理が楽しく、作品に出てくる料理、飲み物の美味しそうなことといったら。

シャンパングラスに注がれる金色の泡、その味が広がってきて、思わず本を抱き締めて、うっとりと目を瞑ってしまいます。

出かけることが阻まれるなかなか世知辛い昨今、ぜひ、この作品で五感を刺激される幸せで楽しい読書体験をしていただけたら


『准教授・高槻彰の推察』シリーズ
著・澤村御影 KADOKAWA
 
作品紹介➡︎幼い頃、怪しげな夏祭りに迷い込んだことがきっかけで、人の嘘を見抜く能力を持ってしまった青年・深町尚哉は、周囲と距離を置いて過ごしていたが、大学に進学し、民俗学の准教授・高槻彰良との出会ったことで、怪異現象にまつわる事件に巻き込まれることになる。
 
望月感想➡︎昔から土地に伝えられてきた迷信や、誰もが聞いたことがある怪談話。
そうした現象を高槻先生が分かりやすく解説してくれて、深い洞察力で真実を見抜いていく。

尚哉や高槻先生の能力の秘密や、怪異の真相に惹きつけられ、天真爛漫な高槻先生と堅真面目な尚哉をはじめとしたキャラクターたちのやりとりがとっても楽しいシリーズです。


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ダ・ヴィンチストア選書

テーマは『今だからこそ……あえて』でした。
悩んだ結果、私の選書は

あえての王道・金字塔作品!
 
ダ・ヴィンチストア用のコメントは
文字数に限りがあったので
加筆して紹介させていただきます。

ノルウェイの森
著・村上春樹

おそらく、知らない人はほとんどいないでしょう、村上春樹先生の代表作です。
はじめて、『ノルウェイの森』を読んだのは、今から30年前、高校生でした。
実を言うと、「まどろっこしい」「それでオチは?」と、その頃の私にはピンと来なかったのです。
なんといっても、井戸の描写に1ページ使っているのですから。
ですが、最近ふと手に取り、再読したところ、
「え、井戸の描写に1ページも書けるなんてすごい」
平易な言葉で、簡潔にそれでも、分かりやすく描写しています。読書の想像に委ねることなく、どんな井戸なのか、しっかり書ききり、私の頭にありありと浮かぶ。
そんな感じで、村上春樹のノルウェイの森はまるで私小説のように、丁寧に美しく綴られた文章はとても詩的で美しく、読みながら主人公に憑依するかのように引き込まれて、一気に読了しました。
「天才だわ」
30年越しに、なぜ村上春樹が多くの人の心をつかむのかを知ったのです。
今だからこそあえて、『ノルウェイの森』。
ビートルズとお酒と一緒にいかがでしょうか?
 
白夜行
著・東野圭吾

東野圭吾作品で何が好き?
と問われたら、私は迷いもせずに、この作品を挙げます。
主人公二人の心理描写を一切排除しながら、それでも二人の戦いと絆がしっかり伝わってくる。
ふとした時に、この物語を思い出しては、切なさと強さを感じる読む人の心に爪痕を残す作品です。
 
十角館の殺人
著・綾辻行人

新進精鋭作家たちが至極のミステリを生み出している昨今。
市場は再びミステリで盛り上がっているように感じています。
そんな今だからこそ、新本格の金字塔『十角館の殺人』はいかかでしょぅか?

私は20年ぶりくらいに再読して、あらためて衝撃の一文に驚かされました。
コミカライズもいよいよクライマックスでドキドキしています。
 
陰陽師
著・夢枕獏

妖や陰陽師を取り扱う作品は今、市場に溢れています。
はい、私も書いています。
その元祖であり火付け役、そして金字塔は間違いなく『陰陽師』ではないでしょうか。
安倍晴明という謎めいた人物を描いたこの作品。
今だからこそ、お手に取ってもらいたいです。
 

──と、ここまでが巨匠作品ばかりだったので、最後の一作は「あえて」の新人作家さんで。


君の顔では泣けない
著・君嶋彼方

男女が入れ替わる物語といえば、映画「君の名は」を思い浮かべますが、それだけではなく、語りつくされた王道設定ではないでしょうか。

今作はそんな王道設定に「あえて」挑んだ作品です。
入れ替わりや心の機微を圧倒的リアリティで描き切っています。
どんなことがあっても人は生きていかなければならない。
清々しい読後感と、主人公の決意に目頭が熱くなった作品です。

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[ダ・ヴィンチ・ストア
望月選書に関して担当編集者コメント]

望月さんは、ジャンルやメディアを問わず柔軟に貪欲に、様々なエンタメ作品を積極的に摂取されているのですが、多忙なご執筆の中で一体いつそんな隙が!? といつも驚かされます面白そうなものに対するアンテナがすごい!)。

でもそんな日々吸収が糧となって望月作品の愛すべきキャラクタたちや、胸に刺さる厳しくも優しい言葉、心躍るようなストーリーが生み出されているんだなあと思います。

 

今回、選書に当たって「本当に今さらというような金字塔的超有名作品が多いのですが、あえてここまで振り切るのもアリかなと(笑)」とコメントをいただきました。

確かに、超有名すぎて、タイトルやあらすじは何となく知っていたけれど、実は自分でちゃんと読んだことがなかったかも……ということ、あったりするかもしれません(ぎくり)。

れをきっかけにぜひ


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[最後に]


見事に統一性のない選書になりました笑
好みはあると思いますが、私自身は大好きな作品ばかりです。

もし良かったら秋の読書のおともにしていただけると。

 
 

※ダ・ヴィンチストアの選書棚