いやはや、

歌舞伎を観て泣くとは思いませんでした。



私が義母に顔見世に連れて行ってもらったのは、2013年、京都に移住した年のこと。


それまで、歌舞伎のなんたるかも分からない、顔見世って新年にやるものじゃないの?という勘違いさえしていた私が、義母の計らいで特等席で観劇させてもらえたんです。


その時の感想は、京都寺町三条のホームズ③巻にすべて書かせていただいているので、割愛しますが、初めて触れた伝統芸能がとても興味深く、


ああ、これはハマってしまう人がいるだろうな、と思ったのが感想でした。


ちなみに私は、とても良い経験をしたと思ったけれど、ハマるまではいかなかったんです。


あれから六年。

再び、私は義母に誘ってもらい、顔見世に行ってきました。


前回は昼の部だったので、今回は夜の部。

南座は満員で、顔見世の人気の高さが窺えます。


四幕構成になっていて、長い話や短い話、踊りなのがあります。


さて冒頭で書いた一文。

泣いてしまった演目は、

『堀川波の鼓』

という演目でした。


ざっくりあらすじを説明します。

パンフレットにはラストまでのあらすじが書いているので、私もそれに倣いますが、観に行く予定があり、

ネタバレが嫌な方は、ここから先はお気をつけください。


【堀川波の鼓】


──舞台は、江戸時代。

武士の妻、お種は、江戸にお勤めに行ってる夫の帰りを心待ちにしていました。

ついつい、妹にのろけばかり聞かせてしまう、仲睦まじい夫婦です。


さて、ある日、お種は息子を鼓の先生を招いてもてなしていました。

というのも、その時代、楽器を嗜めるというのは、上司に気に入られることにつながり、出世に必要なことだったそうです。


なんとか息子をとりなしてもらいたいと、お種は先生に酒を勧め、先生もお種に酒を勧め、ついつい飲みすぎてしまいます。


やがて息子は、用事があると席を外し、気がつくと部屋にはお種と先生の二人きりに。


先生は二人きりはまずい、と奥の部屋で休ませてほしい、と下がります。

一人残されたお種は、夫を想い、寂しさにまたお酒を飲んでいました。


ふと物音がして、確認すると、家に日頃、お種に横恋慕している男が忍び込んできていました。

(今で言うストーカー)


ストーカーはお種にしなだれかかり、なびいてくれなかったら、あなたを殺して自分も死ぬ、と刀を出します。

お種はこの事態を回避したい一心で、

「分かった、あなたの言う通りするから、でも今日は駄目。また後日に来てね」

と、なだめていると、

奥の部屋から大きな物音がしました。

それは話を聞いていた先生がわざと立てたもので、ストーカーは驚いて逃げ帰ります。


先生はというと、話がしっかり聞こえていなかったので、お種が不倫をしていたと思い込み、冷めた顔で「帰ります」と家を出て行こうとします。

この時代、不貞は死罪でした。

先生は、このことを周囲の人に伝えてしまうかもしれませんが、あしからず、と言い放ちます。


お種は慌てて先生に事情を説明しますがわ信じてくれない。

彼の足にすがりつき、違うんです、と弁明していくうちに二人の距離がどんどん近くなり、お種もなんとか彼の口封じをしたいと懸命だったのと、お酒の力もあって、


なんとお種と先生は、間違いを犯してしまうんです。


酔いが覚めたお種は、なんてことをしたのだろう、と真っ青になって、ふらふらと先生と二人で、家を出たところを戻ってきたストーカーに目撃されてしまいます。


「お前ら、不倫してたのか!」


逆ギレしたストーカーは、お種と先生の着物の袖を引き千切って証拠とし、そのままいなくなってしまいます。


それから4カ月。

いよいよ、勤めを終えて夫が帰ってくる日を迎えます。


愛妻家の夫は、この日を心待ちに家に入りました。

迎えた妻、お種は嬉しそうにしながらも、顔色が悪い。

夫は体調を気遣い、妻は少し休むと部屋を下がります。


お種の姿がなくなると妹(夫にとっては義妹)がやってきて、「お義兄さん、私はずっとあなたのことが好きでした。姉ではなく、私を選んで」と恋文を渡します。


突然のことに夫は驚いて、「姉の夫になんてことを言うんだ!私が想うのはお種ただ一人だ!不届き者!」と突っぱねて、部屋を出ていきます。


一方、お種は自分の妹が、夫に恋文を渡したと知って、激怒し、妹を折檻します。

妹は泣きながら、「お姉ちゃんを助けるためだったの。お姉ちゃんとお義兄さんが離縁してしまえば、お姉ちゃんは死罪にならない。だって、もうそのお腹では、隠しようもないじゃない」と床に崩れました。


そう、お種は妊娠していたんです。

何度も自害を考えながらも、一目でも夫を見たいと生きながらえてきました。

不貞は死罪。

この場合、夫が妻を斬り殺さなくてはならない決まり。

そうでなければ、藩士として世間に示しがつかない時代です。


やがて夫の元に、夫の妹や近所からの知らせが入り、ついにお種が不貞を働いたことを知ります。


夫は愕然とし、しばし呆然としていたものの、覚悟を決めて妻を仏間に呼びます。

「女、何か言うことはないか?」

これまで、お種、お種、と言ってきた夫が「女」と言い放ちます。

お種は見苦しい言い訳をせず、ただ、心変わりをした結果ではない、と息も絶え絶えに伝えました。

様子がおかしいので見ると、妻は既に胸を刺して、自害していました。

そのことを知った夫は、すぐに介錯をして、彼女を楽にします。


お種の亡骸に着物をかけて

「これから相手の男を討ちに行く」

と言う夫に、

実妹や義妹、息子たちが「自分も一緒に行く」「お種の仇を取りたい」と詰め寄ります。


すると夫は一人でいい、と首を振り、


「そんなにお種のことを思うなら、どうして、尼にしてでも助けてやろうとしなかったんだ」


と言って、むせび泣くんです。


たとえ不貞を働いた妻でも、愛していて、殺したくはなかった。

尼になっても生きていてほしかった、と夫が泣く中、幕が閉じていくのでした。


**************


(´;ω;`)


号泣ですよ、ほんとに。

ってか、ストーカーこそ斬られるべきかと。


その次の演目は『釣女』という

とっても楽しいもので

愛之助さんがそれがコミカルに演じてくださいまして、

神さまが取り持った

『美しい女性』を演じた


中村梅丸改め莟玉さんの

ガチな美しさ!


びっくりしました。

え、女性?

と前のめりになりましたから。


なんて美しい役者さんでしょう。

一目でファンになりました。


その後の演目や踊りも素敵で、

初めて行った時より楽しめました。


年の瀬に一年に一度の贅沢をして

今年の労をねぎらい、

来年に向けてがんばろう、と思う


それが京の冬の風物詩、顔見世です。


ハードルが高いとか

身の丈に合わないとか

私も思って敬遠していましたが

元々、庶民の文化。


ぜひ、思い切って伝統文化に触れて、

日頃の労をねぎらってもらいたいなぁ、


と思う私でした。