新刊イベントを終え、
コミカライズ祭りで盛り上がり、軽く燃え尽き症候群の私ですが、
(自ら立ち上げた祭りで勝手に燃え尽きてる場合ではないんですが)

世間はハロウィンですね!

せっかくなので
ハロウィンSSを書きたいと思います

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※秋月先生作画 コミック版の清貴

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「お久しぶりです。家頭さん」

清貴が一人で店番をしている時に、突然訪れたのは、以前吉田山荘真古館で朗読会を開いた女流作家の相笠くりすだった。

かつてはゴスロリファッションに身を包んでいた彼女だが、今は普通にスーツ姿であり、印象はあの時とまるで違っている。

表に出て活動する作家としては、前の方がインパクトがあって良かったのではないか、と清貴は思いながら笑みを返した。

「これは、相笠先生、お久しぶりですね」

「突然お邪魔しましたのは、お願いがありまして」

菓子折りを出しながらおずおずと言う彼女に、清貴は『やっぱり』と苦笑した。 

店に入ってきたその様子から、何か頼みごとがあることを察していたのだ。

相手が他の人間なら、「お断りします」と、この時点で突っぱねるのだが、作家である彼女の頼みとなると、どんな内容なのか興味もあった。
とはいえ、なるべく面倒な話じゃなければ良いのだか。

「お願いといいますと?」

「実は……」

彼女は紙袋の中から、ゴソゴソと何かを取り出した。
それは、黒いマントと牙──ヴァンパイアの衣装だ。

「今、ヴァンパイアの話を書いていて、その表紙イメージを絵師さんに伝えるのに、モデルになってほしいんです。ヴァンパイアの仮装をしたあなたの写真を撮らせてください」

黒いマントを差し出して彼女は頭を下げる。

それは思ったより、ずっと簡単な頼みごとだ。
ヴァンパイアの扮装ならば、今の服にマントと口に牙をつけるだけで充分だろう。

「今日はハロウィンですし、急にお客様が来ても大丈夫かと思いまして」

そう続けられ、清貴はカレンダーに目を向けて、「ああ」と相槌をうつ。

「本当ですね、今日はハロウィンでしたね」

自分とは関わりのない行事なため、あまり気にしていなかった。

「引き受けていただけますでしょうか?」

ふと時計を見ると、午後二時。

あと一時間もしたら葵が店に来る予定だ。

ハロウィンだし、ヴァンパイアの仮装で彼女を驚かせるのも楽しいかもしれない。

いつものように入ってきた葵は、自分の姿に驚くだろう。

その時にすかさず、

『葵さん、トリックオアトリート、お菓子をくれないといたずらしますよ』

と伝えたら、彼女はきっと真っ赤になるに違いない。

そこですぐに『冗談ですよ』と返す。

まぁ、本音を言えば、できることならいたずらをしたいのだけど。


「ええ、良いですよ。写真くらいお安い御用です」

清貴は、にこりと笑みを返した。

そうして、マントを羽織り、口に牙をつけ、清貴はヴァンパイアの仮装をして彼女の前に立つ。

「はああ、これは思った以上に……」

くりすは真っ赤になって洩らしたかと思うと、

「家頭さん、柱時計の横にお願いできますか?」

デジタル一眼レフカメラを取り出して、真剣な眼差しを見せる。


その後は、大変だった。

「これから女性を攫うようなイメージで手を伸ばしてください!ひゃああ」

「で、では、不敵に微笑んでください!」

「白い喉を見せつけるように上を向いて!」

「ちょっとだけ、その、舌を出していただいても……ふあああ!」

撮影は清貴が思ったよりも要求が多く、かつとても面倒であり、『自分は絶対にモデルには向いていない』と痛感させられた。

「──ありがとうございました。なんだか最後は趣味に走ってしまって申し訳ないです」

くりすはカメラを胸に抱くように持って、ほくほくした様子を見せている。

「……思っていたよりも、ずっと疲れました」

清貴は額に手を当てて、はーっと息を吐いた。

「ああ、本当にすみません、家頭さん」

「ええ、できれば、こうしたことはこれきりにしていただけると」

その時、カランとドアベルが鳴り、

「おはようございます」

と葵が店に入ってきた。

「あっ、相笠先生、お久しぶりです。わあ、ホームズさんも仮装してる。驚かそうと思ったのに」

その言葉に、「えっ?」と顔を向けると、

葵は、黒い猫耳のカチューシャをつけていた。

「商店街で配っているのをもらったんです。
ホームズさん、『トリックオアトリート。お菓子をくれなきゃ、いたずらしちゃうぞ』なんて」

葵は手を猫のようにして、いたずらっぽく、照れたように笑う。

そんな彼女を前に、


「────っ!」

清貴は、ごつんと音を立ててカウンターに突っ伏した。


「え、ホームズさん?」

「あかん。お菓子はあげへん」

「へっ?」

「せやから、好きなだけいたずらしてくれてええし」

突っ伏したまま言う清貴に、葵は「ええ!?」と頬を赤らめる。

「そ、それでは遠慮なく」

くりすはごくりと生唾を呑んで、すぐに手を伸ばそうとする。

「あなたに言うてません。僕にいたずらしてもええのは、葵さんだけや」

顔を上げてぴしゃりと言う清貴に、

「ええ!?」

葵とくりすの声が店内に響いた、

それは、平和すぎるハロウィンの午後。

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ハロウィン特別ということで、
しょうもないSSを失礼しました
( *´Д`*)


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なんと、このSSを読んでくださった
漫画家の秋月先生が、

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猫耳葵を描いてくださいました!!
(*ノ▽ノ)✨

可愛すぎます!
これは清貴、崩れ落ちもします(*≧艸≦)

秋月先生、ありがとうございました
(≧∀≦)