先日のキャラクター総選挙で
投票結果でSSを……
という話をしましたので
公約(?)通り1位と2位だった

清貴&葵のSSを書きたいと思います
(*´艸`*)


寺町三条⑦のP138〜139に
葵が地区の地蔵盆を手伝ったという一文があるのですが、

あまり詳しく書かなかったので、
この場をお借りして、
葵が手伝った地蔵盆の模様を紹介したいと思います。

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八月下旬。
私は母に頼まれて地元の地蔵盆の手伝いをすることになった。
地蔵盆とは、『地蔵菩薩』の縁日で、八月二十四日を中心行われるお祭りだ。

普段、路傍や街角に佇んでいるお地蔵様を囲むように、小さな縁日が開かれる。
子どもを見守るお地蔵様のお祭りということで、ヨーヨーすくいやスーパーボールすくい、輪投げなど、地区の大人たちが子どもたちの喜ぶ露店を開く。

母が地区の役員を引き受けたため、私も手伝いに駆り出されて、縁日の手伝いをすることになったのだ。

「葵ちゃん、その鍋をこっちにお願い」

祭り会場となる路地近くの幼稚園の園庭を借りられるとのことで、そこで私はカレー作りの手伝いを担当することになった。

「はい」と、大鍋をカセットコンロの上に置く。
用意された鍋は四つ。
甘口、辛口用の鍋が一つずつで、中辛用は需要があるそうで、鍋二つ分を作るとか。
私は、中辛カレー鍋の一つを担当することになり、ジャガイモやニンジン、玉ねぎを切るといった下準備をしているのだけど、慣れない場所での作業に手間取って仕方がない。
手伝いのほとんどは近所の主婦であり、彼女たちの手際の良さに焦りを感じてしまう。

「あら、カレー調理用ミネラルウォーターが足りない」
「本当だ。買ってこないと」
「麦茶ならたくさんあるんやけどねぇ」

そんな声に、私は「あのっ」と声を上げた。

「少しもったいないって思うかもしれませんが、麦茶でカレーを作っても良いですか?」

そう言う私に、手伝いの皆はぽかんとしてこちらを見る。

「麦茶や烏龍茶でカレーを作ったら、コクが出て美味しくなるって裏技があるそうで……」

最近、少しずつ料理をするようになり、さらに美味しく作るにはどうしたら良いのかと、あれこれ調べるようになった。

そんな中、カレーを烏龍茶、または麦茶で作ると美味しくなるという裏技に出会い、実際に試したところ本当にコクが出て美味しくなったのだ。

すると彼女たちは「へえ、そうなんだ」と目を輝かせ、「中辛鍋は二つあるわけだし、ひとつは麦茶カレーで試してみようか」という話になった。

日陰で作業しているとはいえ、じりじりの暑い。巨大な扇風機の風に当たりながら、皆で「暑い暑い」と笑いつつワイワイとカレーを作り、地蔵盆の会場に鍋を運び出す。

母と弟は設営を手伝っていた。
(ちなみに父は仕事だ)
お祭り会場といっても、本当にこじんまりとしたものだ。
地区のお地蔵さんを囲んで、赤い提灯が飾られ、ヨーヨーすくいや輪投げ、射的と小さな縁日が出来ている。

鍋を運んだ後は、今度は輪投げの担当になり、子どもたちの誘導をした。
幼稚園児や小学生たちは、嬉しそうにゲームを楽しみ、その様子に頬が緩む。

地蔵盆は、地域の子どもたちに楽しんでもらいつつ、その成長を見守るお祭りなのだろう。

「はい、今からカレーの時間やで」

そんな声に、皆は「わあ」と目を輝かせて、列に並ぶ。

輪投げの担当を中断して、手を洗い、今度はカレー配膳係に転身だ。子どもたちや保護者にご飯とカレーをよそっていく。

皆への配膳が終わると、スタッフは自分たちの分をよそった。

「あ、同じルーと材料で作ってるのに、麦茶カレーの方がコクがあるわ」
「ほんまに美味しい」

なんて声に、私はホッとして自分の作ったカレーを口に運んだ。

あ、本当に美味しい、と心から思う。
きっと、暑い中屋外でせっせと作り、こうして皆と外で食べているというのも格別なのだろう。

「葵ちゃんは、料理の手際も良かったし、子どもの扱いも上手だし、すぐにお嫁さんに行けそうやね」
「彼氏はいるの?」

からかうように聞いてくる近所の主婦たちに、私は思わずむせた。
すると、弟の睦月がすかさず声を上げる。

「姉ちゃんの彼氏、すげーカッコいいんだ。超イケメン。そして京大生なんだよ」

正確には、京大院生なんだけど、それは良いとして、わざわざそんなことを言わなくても、と頬が引きつる。

「超イケメンの京大生ねぇ」
「あんまり見たことないわねぇ」

私が肯定しないのもあり、主婦たちは睦月の言葉を半ば信じてないように、愉しげに笑う。

「そもそも、イケメンって少ないと思わへん?
美人やったら、よう見かけるけど、イケメンってなかなか。テレビの中だけや」
「まぁ、好みも千差万別やし」

そんな話をする中、

「こんにちは」

と、聞き慣れた男性の声が耳にする届いた。

えっ、と振り返ると、ホームズさんが微笑んでいる。

ラフなシャツにジーンズといつもよりもラフな装いだけれど、それが故にスタイルの良さや、整った顔立ちが際立って見える気がした。

「ホームズさん、どうしたんですか?」

慌てて駆け寄る私に、ホームズさんはにこりと目を細める。

「今日あなたが地蔵盆の手伝いをされるということなので……初めての地蔵盆はどうですか?」

「あ、はい。こじんまりとしていますが、子どもたちの成長を見守る地域の素敵なお祭りだと思いました」

「そうですね、大きな公園で盆踊りをするところもあるのですが、割とこじんまりしているところが多いですね。地蔵というだけあって優しい良い祭りですよね」

二人で顔を見合わせて、ふふふ、と微笑み合っていると、背中に痛いほどの視線を感じて振り返ると、皆が目を丸くして、こちらを見ていた。

「あ、ええと」

私がホームズさんを紹介しようとすると、スッとホームズさんが前に出る。

「はじめまして、葵さんとお付き合いさせていただいております。家頭清貴です」

そう言って頭を下げたあと、

「ああ、お母さん、こんにちは。よく冷えた水羊羹を差し入れに持って来ましたので、もし良かったら皆さんで……」

と、母の姿を見つけるなり紙袋を差し出した。

「まあ、ありがとうございます」

母が戸惑いながら紙袋を受け取る横で、睦月が「なっ、本当に超イケメンでしょう?」と確認するように皆を見る。

「……うん、ごめん、睦月くん」
「ほんま超イケメンやわ」
「好みは千差万別やけど、間違いなく男前」

主婦たちは呆然としながら頷く。

「あ、ホームズさん、カレー作ったんです。良かったら、食べていってください」
「それは嬉しいですね」

ホームズさんを席に案内して、私はカレーの準備をする。

皆はホームズさんの差し入れであるよく冷えた水羊羹を口にして、「美味しいっ!」と目を細めていた。

それは、平和で朗らかな地蔵盆の午後。


〜fin〜