私のもとにたくさんの方から
書籍の感想が届いていて
とても嬉しく思っています

本当にありがとうございます
m(__)m

何かお返ししたいと思いまして、

感謝御礼で、

京都寺町三条のホームズ
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わが家は祇園の拝み屋さん

この二作のコラボ掌編を書いてみました(*ノ▽ノ)

清貴と澪人
京男子競演をもし良かったら♡
(*´艸`*)


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感謝御礼特別コラボ掌編

京都寺町三条のホームズ
×
わが家は祇園の拝み屋さん

【拝み屋さんと鑑定士】

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京都寺町三条に、『蔵』という小さな骨董品店がある。
店内は明治・大正を思わせる和洋折衷な雰囲気。
古き良き洋館の応接室を彷彿とさせるアンティークなソファーとカウンターがあり、まるでレトロモダンなカフェようだ。
決して高くない天井には小ぶりのシャンデリア、壁には大きな柱時計があり、店の棚にはたくさんの骨董品や雑貨が並んでいる。

ここは、高校生の私・真城葵のバイト先で、今この店にいるのは、オーナーの孫の家頭清貴さんで、通称『ホームズ』さん。
細身の身体、少し長めの前髪に白めの肌、そして鼻筋の通った、かなりの美青年だ。


ボーン、と柱時計が音を立てたことで、カウンターで帳簿をつけていたホームズさんは顔を上げた。

「そろそろですね。
葵さん、二階の倉庫に物を取りに行くので、お客さんが来たらよろしくお願いいたします」

立ち上がりながら言うホームズさんに、「あ、はい」と私は頷く。

この店にお客さんは、滅多に来ないのだけど。
階段を上がっていくホームズさんを眺めながら、いつものように埃取りで優しく埃を払っていると、『カラン』とドアベルが鳴った。

「い、いらっしゃいませ」

どうせ、誰も来ないだろうと油断をしていため、少し焦って振り返ると、

「こんにちは」

そこには、羽織に袴姿の若い青年が笑みを浮かべていた。
京都ならではの、独特のイントネーション。
黒髪に白肌、美しい顔立ちと、ホームズさんと共通点があるのだけど……。

「清貴さん、いはる?」

のんびりとした口調で少し首を傾けて、目を弓なりに細める。
彼の体から、ほんのり梅の香りが漂ってくる。
ホームズさんが『美青年』ならば、この人は『美人』といった感じだ。
ホームズさんは歯切れの良い話し方をするけれど、この人の口調は舞妓さんのようにのんびりしている。
『麗しい』という言葉が、ぴったり当てはまるのかもしれない。

呆然と立ち尽くす私に、「どないしました?」と顔を覗く彼に、我に返った。

「あ、えっと、ホームズさんは……っ」

そこまで言いかけた時、

「ああ、澪人(れいと)くん、お待ちしてました」

二階からホームズさんが、小さな桐の箱を手に降りて来た。
どうやら、彼の名前は『澪人』というらしい。
名前までも麗しい。
ホームズさんはカウンター端に箱を置き、

「お茶会の帰りですか?」と彼の姿を見ながら尋ねる。

「そうなんです、おとんの代理で、祇園の茶会に」
「祇園から歩いて来られたんですか?」
「たまには散歩もええですわ」
「あなたがその格好で町を歩くなんて、とても目立ちそうですね」
「なんや、僕、『京都に浮かれた観光客』思われてたみたいですわ」
「いやいや、あなたの立ち居振る舞いは、京都そのものです」
「それは、清貴さんこそや」

ふふふ、と笑い合うホームズさんと澪人さん。

う、麗しすぎる。
そして、なんだろう、この異様な迫力は!

「ああ、立ち話もなんですから、どうぞ、おかけください」

と椅子を指したホームズさんに、彼は首を振る。

「いえいえ、すぐに受け取って帰ります」
「急いでましたか?」
「そういうわけやありまへんけど、『それ』を長いことここに置いとかん方がええ気がしまして」

と、澪人さんはカウンターの箱に目を移した。

「そうですか、それではお包みしますね」

そういうホームズさんに、

「あ、私がしましょうか」

と私が箱に手を伸ばしかけた時、

「あきまへん」

澪人さんがぴしゃりと言い放ち、私はびくんと体を震わせて、硬直した。

「あ、すみません」

私が持って落とされた困ると思ったのだろうか?
少し落ち込みかけると、彼は小さく首を振った。

「あなたはとても感受性が強そうやから、それを持ったら変なものをもろてしまいます。触れん方がええでしょう」

澪人さんは懐から風呂敷を取り出し、桐箱の前で二本指を立てたかと思うと素早く包む。

「え、えっと、それは一体?」

戸惑う私に、ホームズさんが沈痛の面持ちを見せた。

「箱の中身は、『櫛かんざし』なんです。ある家の蔵から見付かったそうなんですが、それを使った者に良くないことが次々と起こったそうで、うちに持ち込まれたんですよ。うちでは、扱いきれない物でしたので、専門家をお呼びしたわけです」

「せ、専門家?」

驚きながら澪人さんに視線を移すと、彼はにこりと笑った。

「僕はただの『家の遣い』です」

そう言って風呂敷に包まれた箱を手にする。

「ああ、ほんまに、これはあかんものやねぇ。女の情念が籠ってますわ。自分を捨てた男を恨み、男を奪った女を恨み、世を恨んどる。
……ほんま愚かやね」

独り言のように言って冷笑を浮かべた彼の姿に、ぞくりと背筋が冷える。

「かんざしの持ち主は燃やしたりはしたくないと。……まぁ、価値のあるものですからね」

やれやれ、という様子で腰に手を当てるホームズさんに、澪人さんは頷く。

「分かりました。
次の満月を過ぎたころには、お渡しできるようにしておきます。そうお伝えください」
「よろしくお願いします」

そんな会話に、私はどうにもついていけないまま、ただ二人を見守っていた。

澪人さんは「ほな」と踵を返しかけて、足を止めた。

「あ、そうそう、清貴さん。祇園の吉乃さんとこで和菓子を買うてきたんです。みんなで食べてください」

思い出したように、澪人さんは桜柄の紙袋から菓子折りを出す。

「これはありがとうございます。
でも、吉乃さんところの『さくら庵』は和雑貨店でしたよね?」

ホームズさんが不思議そうに箱を受け取った。

「浅草に行ってた次男の宗次朗さんが帰ってきはって、今、あそこで和菓子作りもしてるんですわ。これが、美味しゅうて」

「それは楽しみです。
それにしても、あのやんちゃで知られる宗次朗さんが戻ってきたなら、『さくら庵』も賑やかになっていることでしょうね」
「ほんまやね。ほんで、きっとこの春には、さらに賑やかになりそうな気がしますわ」
「春に何かあるんですか?」
「さあ、なんとなくそないな気がしただけです」

ふふっと微笑んで、

「――ほな、失礼いたします。誠司さんにどうぞよろしゅうお伝えください」
「ええ、賀茂の皆さまにもどうぞよろしくお伝えください」

二人は優雅に頭を下げ合う。

着物のたもとをふわりとそよがせて、澪人さんはそのまま店を出て行った。
『カラン』と鳴るドアベルと、残された梅の花の香り。

まるで梅の精がやってきて、姿を消してしまったような不思議な感覚だ。

立ち尽くす私に、

「どうかされましたか?」

とホームズさんが顔を覗く。

すぐ目の前にある端整な顔に、どきんと鼓動が跳ねる。

「い、いえ、その……とても、美しい方でしたね」

ホームズさんと並んでいる姿が、またとても良かった。
麗しき京男子の競演。

「彼はよく来られるんですか?」

と尋ねた私に、ホームズさんは素っ気なく顔をそむける。

「……そうですね、憑き物が持ち込まれることは、滅多にありませんから、本当に時々です」
「つ、憑き物?」
「……今度から葵さんのいない時に来てもらうことにします」

最後は独り言のように洩らすホームズさんに、

「えっ、ど、どうしてですか?」

と私は戸惑いに声を上ずらせた。


――それは、三月も終わりの午後。
東京から櫻井小春という少女が、祇園の『さくら庵』に来る少し前の出来事。


感謝御礼特別コラボ掌編
京都寺町三条のホームズ×わが家は祇園の拝み屋さん
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ありがとうございました
m(__)m

※ちなみに、書籍のあとがきで
「いはる」→「やはる」と書きましたが
「やはる?」は、祇園あたりに住む
年配の女性が使う言葉で、
若い男の子はまず使わないそうで
澪人は「いはる?」と聞いています