渚ちゃんは、多分今の心境では

食べたくもなかったはずの唐揚げを

無心で食べていた。

 

せっかく頼んだものを

無駄にはしたくなかったのだろう。

 

だっていつも、下の子達が残したものは

「ママが一生懸命作ってくれたのに!」

と言いながら、食べてくれる。

 

こうやって小さいところでいつも

この子は気が回るのだ。

 

 

 

海ちゃん「あなた」

 

 

 

海ちゃんの声に、川太が顔をあげる。

 

 

 

海ちゃん

「私もあなたも今、渚に

 大変な負担を背負わせてる。」

 

 

 

川太「あぁ、そうだな・・」

 

 

 

渚ちゃん「ママは違う!」

 

 

 

海ちゃん

「うぅん、ママもそうだから。

 だからこれ以上渚に

 負担をかけるわけにいかない。

 

 今日のこの子の言葉を聞いて 

 本当に心を入れ替えて。

 

 過去はもう変えられない分

 今以上に一生かけて、子供達の未来を

 守っていかないと。」

 

 

 

川太

「あぁ、本当に、、渚。

 ごめんな、、、」

 

 

 

渚ちゃん

「もう、同じ言葉ばっかりいらない。

 

 よし、ママ帰ろう。」

 

 

 

海ちゃん「うん。」

 

 

 

2人が帰ろうとすると、

川太は立ち上がって、その姿をただただ

見つめているだけだった。

 

 

渚ちゃんはそれから、

1度も振り向くことなく歩いた。

 

 

海ちゃんは振り向いて、

川太と目があって、唇をギュッと噛んだ。

 

 

吐き捨てたい言葉が色々あったが

もうこの先、子供の前で

この人を罵るようなことを言うのはやめよう

瞬時にそう思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

渚ちゃん「ふぅ。」

 

 

車に乗ると渚ちゃんが

どすんとシートにもたれる。

 

 

渚ちゃん

「意外と、言いたい言葉なかった。」

 

 

 

海ちゃん「ん?」

 

 

 

渚ちゃん

「パパに会ったら、あれも言うとか

 これも言うとか思ってたけど

 なんか、別に話すことなかった。

 

 なんでだろう、カウンセリング

 受けたからかな。」

 

 

 

海ちゃん

「それって、どういう気持ちで?」

 

 

 

少なくとも、

顔を見たら怒りがおさまった

という感情ではなさそうだ。

 

 

 

渚ちゃん

「うーんと、・・なんか

 ごめんしか言わないから

 

 もういいやって思って。

 

 たくさん言っても、どうせ

 ごめんって言うんでしょ?」

 

 

 

海ちゃん

「まぁ、そうだろうね。」

 

 

 

渚ちゃん

「それじゃあ会話にならないじゃん。

 ひとまず明日パパが

 今後どうしたいって送ってくるのか

 あんまり期待出来ないねぇ。」

 

 

 

海ちゃん

「そうだね、、ねぇ。

 

 ラーメンでも食べて帰る?」

 

 

 

渚ちゃん

「あっ、食べる食べる。

 

 さすがにあそこでパパと

 普通に話しながら食べるのは

 無理だったよ。」

 

 

 

海ちゃん「そうね。」

 

 

 

それから渚ちゃんは

ちゃんとラーメン1杯を残さず食べて

その間ずっと

川太のことばかり話していた。

 

 

きっと渚ちゃんは川太のことを

心底憎んでいるわけではないのだと

海ちゃんは思っている。

 

 

自分が異性や家族として

見ている川太と

 

娘が父親として見ている川太では

きっとまた、違うのだろう。

 

 

この思春期の、大人と子供の感情が

表裏一体の時期。

その些細な心の変化を

決して見逃さないようにしてやりたいと

帰りの車の助手席で眠る

まだあどけなさの残る娘の寝顔に

海ちゃんは誓う。

 

 

 

 

 

 

次の日、川太からLINEが届いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー