当時の私は

結婚を考えていなかったわけではない。

 

いやむしろ、考えていたと思う。

 

 

仕事中心の日々。

やればやるほど成果は出て

認められる職場。

 

そんな毎日はやりがいがあって

楽しくて、辛くて

忙しくて、騒がしくて

 

だけど心のどこかに

ぽっかり穴が空いていて。

 

 

次に付き合う人は

結婚相手と思える人。

私は本当に、そう考えていた。

 

 

 

タクヤ

「だから僕と結婚前提でって

 言ったじゃないですか。

 

 ミキさん、結婚する相手じゃないと

 付き合わないんですよね?

 だったら大丈夫です。」

 


 

大丈夫って、どういう意味だ?

 

全然、大丈夫じゃないんだけど。

 

 

 

 

とにかく今の私に

恋愛ごっこをしている時間なんて

全然ないんだよ。

 

 

仕事に友人付き合い、

それだけで私の毎日のスケジュールは

全て埋まっていた。

 

 

 

けれどふと

出産を考えた時の自身の年齢にも

タイムリミットが迫って来ていることも

わかっていた。

 

 

仕事はしたい。

 

でも、

このままでいいかわからない。

 

 

でも、突き進まないと。

 

 

 

 

なんて、もやもやしながら

返信内容を考えていると

 

 

 

 

タクヤ

「僕とミキさんが結婚すれば、

 ミキさんの気にしてること

 解決しますよね。

 

 僕は結婚前提に付き合いたいんです。

 ずっと一緒に居たいんです!」

 

 

 

 

おい。

 

これはプロポーズ?

 

 

おい。

 

そもそも付き合ってもない。

 

 

 

ここからさらに

タクヤからのアタックが加速した。

 

 

 

 

今になって振り返ると、

この時から人の話なんて

全く聞いてない奴だった。

 

 

けれどこうして仕事では、

隙など見せずにやってきた私の心に

タクヤは土足でずかずかと入って来た。

 

 

 

 

上司と部下として

他の後輩も交えて飲みに行った翌日から

タクヤは毎日

LINEしてくるようになった。

 

当時はなんだか、子供が

ガムシャラにアタックしているような

そんなイメージを持っていた。

 

 

タクヤはいつも私に聞く。

なんでダメなのか、と。

 

だから、ちゃんと言ってるじゃん。

ダメな理由。

 

 

どうしたら付き合ってくれるのか。

 

いやどうしても

付き合えないって言ってるやん。

 

 

こんなラリーを繰り返した。

 

 

流しても、バッサリ切っても

 

タクヤは諦めなかった。

 

 

だけど同じ職場にいるタクヤを

私も無下に

突き放すことは出来なかったし

しなかった。

 

繋ぎ止めておきたかったわけじゃない。

面倒だったのだ。

 

 

20代の男で

ここまで何度も挑んでくるのは珍しい。

 

これは、凄い果敢な勇者か。

もしくは、

言葉の通じない宇宙人なのか。

 

 

今となっては、心底痛感している。

タクヤはこの時から、

言葉の通じない宇宙人であったことを。

 

 

 

そんなタクヤからの

猛アタックを受けている日々。

 

仕事は仕事で

以前と変わらず接していた。

 

 

 

そんなある日。

 

 

タクヤと仕事終わりに

飲みに行くことになった。

 

LINEは相変わらず入って来ていたが

もうそんな日々にも慣れて

だからって

どうなることもなかったので

 

 

私もそろそろ

諦めたんじゃないかと

思っていたこともあり、

仕事の話で、その日の飲みは

終わるであろうと思っていた。

 

もちろん終わらせるつもりだったし

引き続き私はタクヤのことを

男性としては

好きでも嫌いでもなかった。

 

 

しかしなぜか、

タクヤは諦めていなかったようだ。