ミスタードーナツの店内にはお客さんは私達の他に誰もいませんでした。
平和なはずの山口でさえ、震災で緊迫感があるのを感じました。皆外出を控えている…。
私は、ドーナツあと半分が食べれなくて、隊長に食べてもらいました。
元気にドーナツを食べる隊長の姿に、私は少し安心もしました。
「この間の保険入るからな」
と隊長は言ってくれて、私が前に提案していた、一時払いの貯蓄型の保険商品に加入すると
言ってくれました。
「保険はいいよ…。命の方が大切だから。帰ってきたら考えてね…」
私は答えました。
「あなたは保険屋さんでしょう。ちゃんとお仕事しなさい」
隊長は自分にも他人にも厳しい人でした。結局、私はご契約をお預かりしました。
隊長はこの時300万もの大金を私に託したのです。私は辛かった…。明日命がどうなるか分
からないのに、本当は保険やお金を預かりたくなかった…。この時、私の仕事は最低な仕事
だと思いました…。
隊長は、また自衛隊に戻らなきゃならなかったので、この後携帯ショップに一緒に行って、
電池パックをもらって、それから生活雑貨をイオンで買って、緊張しながら最後の買い物を
しました…。
次の日出発する直前に、彼は郵便局で保険の振込を済ませてくれました。最後の最後まで
本当にすごい余裕の人だなと私は思いました…。彼は輸送機で出発しました…。
基本的に、陸自は陸路、海路は海路、空自は空路なんです。
(隊長、マジかっこいいよ!!!)
私はもう、保険業界を辞めて、この業界に戻ろうとは思いません。こういう経験があるからで
す。私は、明日戦地に行く人や死に逝く人に、保険を売ろうとかお金の話をしようなんて思わ
ない。ただただ、安心してほしい。だから、私はそんな人にシータをかけたい。自分にもそうし
たいのです。
(つづく…)
