朝日の記事の肝の部分 | ロバートテイラーの独りごと

     20日から宙組の公演が再開されるが、女性は言う。 「私はまだとても、見に行けない」

     長く熱心な宝塚ファンだった女性は、観劇の幸せの裏側に長時間労働や人権の問題があったことに気づいたといいます。


    舞台で見ていたあの女性が

     亡くなった劇団員は、実際に舞台で見たことがある女性だった。「まさか」。どこかその事実を受け入れられていなかった。でも、宙組の公演が中止され、「ああ、やっぱりそういうことがあったんだ」と、実感に変わっていった。

     1990年代からの宝塚のファン。年に数十回は公演に足を運び、宙組を中心に見てきた。

     劇団の対応に、疑問が募った。宙組の公演は中止されていたものの、他の組のすべての公演が中止されていたわけではなかった。

     これは、宙組だけの問題なのだろうか。1人の劇団員が亡くなった事実がありながらも、何とか態勢を整えて公演を再開したいという劇団の意思を感じた。


    長時間労働、ファンの間では「周知の事実」

     昨年11月には遺族側と劇団側がそれぞれ記者会見を開いた。

     遺族側代理人は「死亡の原因は長時間労働や上級生のパワーハラスメントにあった」とし、歌劇団に謝罪と補償を求めた。

     一方、劇団側は長時間に及ぶ活動などの管理責任を認めて謝罪したが、上級生によるパワハラやいじめは確認できなかったと主張した。

     女性は双方の記者会見を聞き、悲しみと怒りの感情をぶつけるように文章をつづっていた。

     「私の幸せは、若い女性たちの死ぬほどつらい時間によって成り立っていたということが心から悲しいです」

     長時間労働については、ひとごととは思えない事情もあった。新卒で大手企業に入るも、1年ほどで辞めてしまった。その後、広告大手の新入社員の女性が過労自殺したことが報じられた。自身も月に100時間を超える残業をしており、「いつ自分がそうなってもおかしくなかった」と振り返る。

     宝塚における長時間労働も、ファンの間では「周知の事実だった」と女性は思う。

     稽古を終えた劇団員をファンが待つ文化があるが、深夜になったり、消灯後にも劇団員がけいこをしていたり。舞台で使うアクセサリーを徹夜でつくることも。そんな話はファンクラブ、雑誌や番組などでよく出てきていたという。


    古き伝統を賛美する文化 「夢を売るフェアリー」

     ちゃんと寝た方がいいのではないかと思ったこともあったが、「超人だなぁ」としか思っていなかった。

     女性は、こういった問題が労働環境や人権の問題としてとらえられない背景に、長時間労働や厳しい上下関係を「古き伝統」として重んじ、賛美する文化があったと考える。

     また、その中には、「美しくあらねばならない」「人気を得なくてはならない」「競争に勝たなくてはならない」といった根強い価値観があり、劇団員の女性たちの自由意思や自己決定が尊重されていない環境だったとも指摘する。

     宝塚では「私はフェアリー」という曲があり、そこでは「わたしは夢を売るフェアリー」という歌詞が出てくるという。劇団員を「女性」や「人」としてではなく、神聖化された対象としてみていたことも、問題視する。

     でも今回のことで初めて、自分が楽しむことの裏で、傷ついている人がいたことに気がついた。今まで見てきた芸術は、長時間労働やパワーハラスメントといった人権侵害の上に成り立っているものだと思った。

     だが、その舞台に拍手を送り、楽しんでいた自分。見て見ぬふりをして問題視しないまま、宝塚を「消費」してきた。ファンが被害や加害に火をくべてしまっていたのではないか。罪悪感が募った。


    「ファンは逃げずに考えて」

     劇団員がいる環境が健全なものとなり、劇団自体が信頼できる組織にならない限り、公演は見に行けないと思うようになった。

     今年3月、歌劇団はこれまで認めてこなかった歌劇団の上級生らによるパワーハラスメントについて、14項目にわたり認める合意書を遺族側と結び、謝罪したことを明らかにした。劇団側はこの時の記者会見で、「環境や、組織風土を時代に合わせて変えてこなかったのは、まさに劇団。その責任は極めて重い」と話した。

     公演は再開されるが、女性は、劇団が環境や組織風土を本気で変えようとしているとは思えないという。