20代前半、私は泣けない女優でした。そのシーン舞台上にいる人が全員泣いている中、私だけが泣けませんでした。
演出家の先生にも「イサベル(私の役名)が泣けないのはその頑固な性格にあるんじゃないですか?」と言われ、裏で悔し涙を流しました。(こんな時は涙出るのにと余計に悔しかったです)


その座組で私は女子では一番若くて、みんなに甘やかされてました。なので、いろんな先輩に泣く方法を聞きました。
・あまり寝ないとあくびが出るからそれを誘い水に泣く。
・目をずっと見開いていると目が痛くなって涙が出る。
・死んだおじいちゃんのことを思うと泣けてくる。
などなど。
これらを実践すると、芝居が見事に出来なくなります。スペインの革命家の兄が目の前処刑されるシーンで、あくびしたり死んだおじいちゃんのことを思い出したりできるわけない。私はますます混乱しました。

泣けないまま本番を迎えた千秋楽の朝、その座組で一番ベテランの文化座の女優さんに話しかけました。その方は多忙なスケジュールの中の出演だったので稽古場ではほとんど話したことなかったのですが…本番中はみんな楽屋が一緒だったのでお話ができました。

私→あの…わたしだけあのシーンで泣けないんですけどどうしたらいいんでしょうか。
女優さん→あら、じゃああなたはどんな気持ちでいるの?
私→えっ…わたしは、その時は、怒ってます。兄を理不尽に殺されて悔しいです。
女優さん→それでいいのよ。
私→えっ?
女優さん→怒っていて、悔しいんでしょう。それでいいのよ。泣こうなんて思わなくていいの。
私→ありがとうございます!


その女優さんに背中を押された私は、初めて自信を持ってその舞台に立ちました。
そして問題のそのシーンでは、わたしはちゃんと怒りました。怒って怒って悔しいと思った瞬間に涙が止まらなくなりました。



その女優さんがわたしに教えてくれたことは
嘘の涙はいらないということ。


涙をコントロールできる役者さんはたくさんいると思いますが…大切なのは今ここにいること。(0号の台詞!)ちゃんとその役として存在していることなんです。


役に入り込み過ぎて涙が止まらなくなったなんてこともありますがね…。
涙はコントロールせずに自分をコントロールすることが大事です(^ ^)




役者の皆様も涙に振り回されないようにね。





台本上に泣く。ってト書きを書いちゃうわたしですが、泣かなくてもいいんですよ、本当は。って話です。