映画『晩秋』(キム・テヨン監督)に出演したヒョンビンは、見慣れているようで新しい。
夫殺しで収監され、7年ぶりに仮釈放された女性エナ(タン・ウェイ)と、誰かに追われている男フン(ヒョンビン)の短くも強烈な愛を描いた同映画は、ヒョンビンとタン・ウェイによる複雑な内面の演技が胸を打つ作品だ。
ヒョンビンが演じたのは、アメリカンドリームを抱き、米国でホストをしながらお金を稼ぐ男。一見、毎日自己満足のために生きている人物のように見えるが、心に深い傷を持っている。そんな心の痛みを持つフンは、エナの眼差しから、彼女が心のどこかに虚しさを持っていることに気付く。
ヒョンビンは「“ホスト”という言葉自体、韓国ではベッドまで共にするような意味がある一方、米国では一日デートをする、恋人になってあげるという意味が強い。そのため話し方や眼差しなど、細かい部分に気を遣い、手の動きや表情などを研究した」と語った。
実際、映画の中でヒョンビンは、まるでジェームス・ディーンのように洗練されていながら反抗的な面を同時に持つ、繊細な目の演技が光る。そんなヒョンビンの姿は、複雑な心境を隠し、前に進めないタン・ウェイと、不釣合いながらも調和を成している。
「いつ会っても仕事をしたい女優」とタン・ウェイに対する印象を語ったヒョンビンは「文化や言葉が違う上、映画の中で面識がない二人の出会いを表現しようとしたため、ぎこちない状態でクランクインしたが、互いの壁が一つずつ崩れていくと、とても楽になった」と評した。
演技スタイルが正反対だった点も、相乗効果を生んだ。感情を高め、瞬間的に発揮するヒョンビンとは違い、いつも集中していたタン・ウェイの演技スタイルがある瞬間、調和を成した。ヒョンビンは「リハーサルやリーディングのときは軽く済ませ、本番で力を出す僕とは違い、タン・ウェイさんはリハーサルやリーディングのときから集中力を見せていた。常に相手の感情に自分を合わせることをタン・ウェイさんから学んだ」と説明。
ヒョンビンはまた、「演技への情熱が強く、感受性がとても豊かな部分、現場でムードメーカーを務めた点など、“どこではじけるか分からない”さまざまな面を持っている」と話した。
劇中、食堂やモーテルなどで二人の微妙な感情が芽生えていくシーンが一番記憶に残る。
ヒョンビンは「互いに上がったり下がったりする感情の起伏を感じながら撮影し、愛着がある。実は、もう少し距離が縮まってから撮影していたら、もう少し楽だったかもしれないが、それなりの意味があったと思う」と伝えた。
ヒョンビンは今年、ドラマ『シークレット・ガーデン』の放送に続き、映画『晩秋』『愛してる、愛してない』が相次ぎ公開、俳優として最高の1年を送っている。しかし、自ら大きな人気を実感できなかったという。
ヒョンビンは「『シークレット・ガーデン』の撮影中は忙しく、ただ“ドラマの人気が高いな”“視聴率が上がったみたいだ”というくらいで、後になってサイン会会場で多くの方々に愛されていたことを知り、すごく驚いた」と話した。
特に、『晩秋』の試写会場にファンが押し寄せ、ごった返したことについては「爆発的な人気はタン・ウェイさんのおかげ」と謙遜(けんそん)した。
『晩秋』は昨年、釜山国際映画祭で初公開され好評を博したが、配給会社の都合で公開が延期された。その後、『シークレット・ガーデン』の人気に乗じて、2月公開が決まった。
これについてヒョンビンは「釜山映画祭のとき好評だったので、“早く公開してほしい”と期待していた。パンは焼き立てがおいしいように、時間がたつと(映画への評価も)変わってしまうのではないかと心配したが、とにかく無事に公開されることになり、運が良かったと思う」と語った。
ドラマに続き、映画まで大きな話題を呼んでいる中、突然の軍入隊は残念ではないだろうか。特に海兵隊を志願したヒョンビンは「最高齢の志願者」として注目を集めた。
「自分の選択に後悔はない。同期はほとんど僕より10歳くらい若いと思うが、体力には自信がある。入隊した後、選択が間違っていたと感じるかもしれないが」と言って笑った。
またヒョンビンは、入隊後も今までのような関心や愛が続くかということに対する不安もない。
「すでにかなり遅いが、今がまさに望んでいた入隊時期。『シークレット・ガーデン』の余波で、一緒に仕事をした方々が残念がっているが、ブランクがあれば、また新しい一面をお見せすることができると思う」と語った。
人気は長く続かないということもよく分かっている。ヒョンビンは「2年後は今と同じではないということをよく知っている。その後の問題は、海兵隊除隊後に考えることではないか」と話した。
軍隊で、自分なりに充実させたい部分も多い。
「芸能活動をするときは、多くの人との関係や外から入ってくるいろいろな話で頭の中がいつもいっぱいになっていたが、そういうところから離れて、静かに休みたいときがある。もっと男らしくなって、今までの演技や周りの人からのアドバイスを振り返り、もう少ししっかりつかみたい。演技力がアップするかどうかは分からないが、自分がもっと堂々と、何かを得たと感じられる時間になればと思う」と話した。
入隊前、イム・スジョンと共演した映画『愛してる、愛してない』がベルリン国際映画祭のコンペティション部門に進出、同映画祭に出席することになったのも大きな名誉だ。
ヒョンビンは「忙しいスケジュールの中でも映画祭を楽しみたい。同映画祭にマッド・デイモンが来るという話を聞いたので、必ず会ってみたい」と言って笑った。
文=チャン・ソユン記者
写真=キム・ジョンウク記者