映画評論家は、今年公開された映画のうち、「観客がそっぽを向いた最高の映画」にクリント・イーストウッド監督・主演の『グラン・トリノ』を、「観客が集まった最悪の映画」に『女子高怪談5-道連れ自殺』を挙げた。 本紙はこのほど、映画評論家10人に「今年1月1日から現在まで封切られた映画のうち、興行成績が50万人未満の最高の映画5本と、50万人以上の最悪の映画5本を挙げてほしい」と依頼した。公開映画のリストや興行成績は、映画振興委員会ホームページで公開された資料のうち、今年12月17日までの興業成績を基準にした。回答者により、選んだ本数が5本より多い場合も、少ない場合もある。

観客がそっぽを向いた傑作




 評論家の半数以上が「最高の映画」に挙げた『グラン・トリノ』『坡州(パジュ)』『よく知りもしないのに』は、どれもドラマ性が高く、人間の本性に焦点を合わせた作品だった。このほかにも「秀作」に選ばれた映画は、ほとんどがストーリー性に優れた作品だった。


 観客約13万5000人の『グラン・トリノ』は、評論家10人中 7人が選び、圧倒的な強さで「観客がそっぽを向いた傑作」1位になった。「イーストウッド監督の映画による遺言状」(チェ・グァンヒ)、「セリフ一言、シーン一つもおろそかにされていない」(チャン・ビョンウォン)、「荘厳なヒューマニズム」(イ・ドンジン)、「巨匠による自己解体の完結」(チョン・チャンイル)と絶賛された。


 2位は、パク・チャノク監督の『坡州』。「抑圧された人々の悲しみ。非常に冷遇された」(キム・ヨンジン)、「今年1年で一番輝いていた映画」(オ・ドンジン)、「知識人の軟弱さや虚像、秘密をすっかり丸裸にした力作」(チョン・ジウク)、「生というミステリーと、愛というヒステリーを載せて運ぶ残像と残響」(イ・ドンジン)と評価された。


 3位は、5票を得たホン・サンス監督9作目の長編『よく知りもしないのに』だった。「虚々実々、柔軟になった体位の中に、さらに強烈な毒舌の暗示」(カン・ユジョン)、「第2幕に入ったホン・サンス映画の境地」(キム・ヨンジン)、「自身の映画言語に対する、揺らがない追求」(チャン・ビョンウォン)、「ホン・サンス監督は、相変らず観客に理解されない監督」(イ・サンヨン)というコメントが寄せられた。


 観客動員数約1万7000人に過ぎなかった是枝裕和監督の『歩いても 歩いても』は4票だった。「小津安二郎監督も感心したであろう家族の風景画」(チェ・グァンヒ)、「今年の1本を選ぶとしたらこれ!」(イ・ドンジン)、「家族関係でお決まりの哀れみの情を捨てさせた、驚くべき洞察力」(キム・ヨンジン)と賛辞を送った。


 米国では興行成績1位になったが、韓国では振るわなかったクエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』は、アクション娯楽映画で唯一、ランクインした。「今年最高の娯楽映画」(イ・ドンジン)、「魅力的な悪党を生み出すのに貢献したのがいい」(キム・ヨンジン)、「スタイルで重武装し、押し切るテクニックだけでも評価」(イ・サンヨン)などのコメントがあった。このほか、二人以上が挙げた最高の映画は、『愛を読むひと』『悲鳴』『女優たち』だった。『愛を読むひと』は「歴史と個人の関係にまつわる重厚で深みのある省察」(チェ・グァンヒ)、「観客が10代の少年と30代の女のセックスを嫌がった?」(オ・ドンジン)というコメントも。『悲鳴』は「この不穏な韓国を、宗教の言語で直視する」(カン・ユジョン)、『女優たち』は「奥の深いせりふのやりとりはいつでも楽しい」(ファン・ヒヨン)と評された。


 得票が1票だった作品へのコメントは、さらに強烈だ。観客わずか552人だった映画『葬式のメンバー』を挙げた評論家イ・サンヨンは「パク・スンビン監督は韓国で最も大切な新人。2本目の長編は大勢の人々を驚かせるだろう」と語った。ヤン・イクチュン監督をスターダムにのし上げた『息もできない』を挙げた評論家イ・ドンジンは「強烈なパトス(情熱)のドラマ」と評した。

観客が集まった最悪の映画



 悪評は制作した側の気に触るが、同意する読者には快感を与えてくれる。評論家は記名の悪評を避ける場合もあるが、鋭い批評もかなり出た。


 『女子高怪談5-道連れ自殺』の興業成績は65万人と少なめだったが、「50万人」という基準と評論家5人の投票により、「観客が集まった最悪の映画」にランクインした。「お粗末で退屈きわまりない、はじかれ者シリーズ」(チャン・ビョンウォン)、「あまりにも安易に作られたフランチャイズ映画」(ファン・ヒヨン)と手厳しい。


 2位は、各4票だった韓国映画3本と米国映画1本。214万人が見た『私の愛、私のそばに』を駄作と感じた評論家は「韓国映画史の記念碑的加虐・被虐的映画」(チョン・チャンイル)、「想像力の枯渇」(キム・ヨンジン)と言っている。


 『炎のように蝶(ちょう)のように』には「炎はかすかで、蝶の羽ばたきは重く鈍い」(チェ・グァンヒ)、『遺憾な都市』は「遺憾な正月用映画」(イ・サンヨン)と評された。743万人を動員したハリウッド大作『トランスフォーマー:リベンジ』は、「変身合体ロボット・スポーツカー・レースクイーンが好きな男性のためのロマン3点セット」(チェ・グァンヒ)と酷評する声もあった。


 バンパイア物とハイティーンのラブストーリーをミックスし人気を呼んだ『ニュームーン/トワイライト・サーガ』は、「デートで仕方なく見に行った男性を拷問するための女性向けファンタジー」(カン・ユジョン)、『ニンジャ・アサシン』は「ワールドスターRain(ピ)が海外派兵されたような印象」(オ・ドンジン)、「友達が辱められているときに感じる、妙な屈辱感を感じる」(カン・ユジョン)などという理由で、それぞれ3票入った。


 このほかにも、「ローランド・エメリッヒ監督は最後まで地球をたたき壊すだけだろう」(『2012』、キム・ヨンジン)、「愛国心マーケティングで一貫した愛国ドラマ(『国家代表』、チョン・ジウク)、「こんな1980年代のメロドラマでは韓国のファンの気持ちもキャッチできない」(『悲しみよりもっと悲しい物語』、ファン・ヒヨン)という評価が2票ずつあった。


 1票ずつ入った映画については、評論家の趣向が強く働いているようだ。今年最大のヒット作『海雲台』は「策略が丸見えの世代別お涙ちょうだい作戦」(チェ・グァンヒ)、釜山映画祭オープニング作『グッドモーニング・プレジデント』は「鋭い風刺やチクリと刺すようなユーモアがないチャン・ジン監督のコメディーはつまらない」(チャン・ビョンウォン)と評された。


■アンケートに回答した評論家:カン・ユジョン、キム・ヨンジン、オ・ドンジン、イ・ドンジン、イ・サンヨン、チャン・ビョンウォン、チョン・チャンイル、チョン・ジウク、チェ・グァンヒ、ファン・ヒヨン(ハングル順、文中敬称略)




韓賢祐(ハン・ヒョンウ)記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版


専門家はそう見ているんだ・・・。なんだかおもしろいアンケートと結果です。

観客552人って・・・。こんなに少ないってことあるんだ・・・。