さて、ちまたでは

本日はバレンタインデーですドキドキ

の幟(のぼり)と売り子さんの声でにぎやかね


「来年のバレンタインには他の彼女と横浜デートするから、いいもん…」

つって、明けた朝にメッセージが来た去年のバレンタイン


なんのこっちゃ?

と思った彼の妄想ダークサイド

私からの告白を期待してたかしら?

今年、彼と迎える初めてのバレンタイン

「仕事するから、お前もハタラケ」

だって。

えっと…

去年のアレは?

去年の妄想スネスネは何処に行ったの?

甘いデートを期待してたのに…

去年のバレンタインをスルーした私への仕返しはピリリと辛かった…


長野出張のついでに寄った善光寺で彼へのお土産はココ↓

七味唐辛子の八幡屋礒五郎


本店ではオリジナルブレンドの七味唐辛子を作ってくれるの

辛さ重視で山椒と生姜多めの香り強い私ブレンドを作ってもらい

「アタシの辛い愛を受け取れ♪」

とチョコの代わりにプレゼントしたった

愛を伝える事はいつもしてるから、ま、バレンタインしなくてもいいかねにひひ

八幡屋礒五郎の七味唐辛子はかなり旨いよグッド!

母親の同僚だった人を頼ってたどり着いたのが草津温泉さ

お世話になったのは置き屋で、母親は次の日から芸者になった

お若いお客さんは知らないだろ?

置き屋は芸者を抱えて寝食を世話する、今どきで言えばプロダクションだね

芸能事務所みたいなものさ

そして、芸者の興行会社みたいなものを見番(けんばん)て言ってさ、草津温泉にはひとつしかなかった

世界的に知られた温泉町だけど、ホントに小さな町さ

四方を山に囲まれた小さな谷の、硫黄臭い町だよ

行った事があるかい

ソコで、浦和の家を出た母親は純子という名前で芸者になった

なに、意味はないよ

ただ、苦虫噛み潰したような顔をした置き屋のお婆さんが、母親の本名の「紀子」という名前が嫌いだったからさ

なんでもお婆さんの恋敵だったらしいよ

あぁ、古い友人の純子とは同じ名前だけど今日の純子は芸者で、アタシの母親のコトだよ

借り物の着物とカツラで玄関に立った母親は浦和の家の暗い玄関に立った母親とは別人のように綺麗だった

その日から

「行ってらっしゃい」

ではなく

「お稼ぎなさい」

と言って見送るコトになった

カチカチと切り火を切って夕方から仕事に出かける母親を置き屋のお婆さんと見送った

無駄なおしゃべりは一切しない、子供の機嫌をとるコトも、ナニかを教えるコトもしない人だったね
笑顔をどっかに置き忘れてきちまった人で、アタシは一度も笑った顔を見たことがなかったね

いつも百日紅の切り株で出来た立派な火鉢の灰をかきながらキセルを吸っていてね

元は芸者だったらしいが、なにがあったんだろうね

あんな無愛想な芸者がいるもんか…

毎晩、母親が御座敷から戻るのを置き屋のお婆さんとテレビを見ながら待っていたものさ

その置き屋には母親の他に、もうひとり芸者がいた

肌が透けるような色白の、綺麗な人だった

しばらくして、その人は嫁にいったよ

と、子供には言ってたけど本当はかこわれたのさ
みずあげされたんだ

綺麗だけど、幸薄い印象のままなのはそのせいなのかね

何度か母親と訪れたその人の家はこじんまりとした一軒家だったけど、ついに旦那の姿をみる事はなかった

幸せなんて、いつまでも続きやしないよ

「もう耐えられない…」って赤黒いアザのついた、痩せこけた顔を押さえて泣いていた

それっきり、その人とは会えなくなった

何処に逃げて行ったんだろうねぇ…

お客さん、アタリメでも炙るかい?

おや、お客さん


よくこんな寒い晩の出てきてくれたね


早くお入りよ


凍った空気が入り込んで来ちまうよ


さ、奥へお座りよ


さすがに、こんな冷えた晩は寂しい呑兵衛もやって来やしないさね


熱いのを、つけようかね?


さ、どうぞ


冷えた胃の腑には、熱燗が落ちていくのがよくわかるだろう?


日本海側ぢゃ、豪雪だってね


お客さんは東京の人だろ?


雪の恐ろしさは知らないだろうね


一晩で背の丈くらい、平気で降っちまう


よく、母親と雪の中を漕いだね


「漕ぐ」ってかい?


あ?知らないのも、無理ないね


腰以上の雪の中を歩く事を「漕ぐ」って言うのさ


お客さん、おっかさんはご健在かい?


そうかい、ご両親とも健在なら安心だ


いいかい?お客さん


いつか、親はいなくなっちまうんだ


今のうちに、感謝だの、恨みつらみも言っておくんだよ


そうさ、いくら親だって、みんなが立派な親ぢゃない


駄目な親だって、いるもんだ


恨みの一言だって、言ってやりたくたっていなきゃ仕方がない


子供はさ、親の顔色をうかがいながら大きくなるんだ


その親がさ、駄目だったら・・・・どうするよ?



今晩はアタシの母親の話をしようかね



夜中に、母親が暗い玄関に立っていたんだよ


今にもドアを開けて外に出ていく様子だった


ピン!と来たね。子供の直観さ


「連れて行け」って泣いたら、母親はしぶしぶアタシの手を引いて


真っ暗な夜道を歩き始めた


案の定、どこをどうほっつき歩いたのか、記憶にない


あるのは、朝の公園の青く塗られた土管の中で目が覚めて、母親が公衆電話で電話していたことと


目が回るほどタクシーの中で揺られてたどり着いた雪景色と、湯気で真っ白な臭い風呂に母親と冷えた身体を温めていたこと


草津温泉だよ


母親の家出に付き合ったら、草津温泉にたどり着いたのさ


まだアタシが5歳くらいだったから、記憶に無いのは仕方ないだろ?


母親が家出をする晩、目が覚めたのも子供の直観さ


胸騒ぎがして探したら玄関に立って背を向けてドアを開けようとしている母親を見つけたんだ


その後、


「どうしてお前ばっかり母親にかわいがられて!」


ってよく兄貴に責められたもんだけど


付いて行ったのが、アタシでよかったのさ


兄貴だったら、耐えられなかっただろうね


いや、わからないね


アタシぢゃなくて、兄貴が母親についていたら


今も生きていたかもしれないね


まったく・・・・人生はさ


答えが出ないことばっかりだよ


お客さん、今夜は遅くなっても大丈夫かい?


熱燗をつけようかね