※お久しぶりです照れ生きてますし元気ですキラキラ




                 『sweetest tune』




なにかがおかしい


登校途中


いつも会った瞬間から明るく話しかけてくる彼女が、黙ったまま隣を歩いていることに違和感を覚えた

数分前、救急車のサイレンに掻き消されて良く聞こえなかった『おはよう』という挨拶の後は一言も言葉を発しないなんて

「…どうかしたのか?」

体調が悪いようには見えないだけに、嫌な予感がしてしまうのは男の性か

「ううん」

魔力を使って心を読むことさえ躊躇してしまうほどマズイことをした覚えはないはずなのに、こっちを見上げて首を横に振った悲しげな表情に不安が増し

「なんだよ?言いたいことがあるなら…」

動揺を隠しながら少しだけ近づけた俺の耳元で

「こえ…出なくって」

彼女はびっくりするくらい掠れた声で囁いた


その後

「応援?」

休み時間を待って、誰もいない部室に連れ出した彼女の思考を読んでわかったのは

「なにもそこまでムキにならなくても…」

昨日の日曜、小学生の弟の運動会を見に行き大声を張り上げて応援していために声が枯れた…という馬鹿馬鹿しい理由だったのだが

『つい、力が入っちゃって』

心の中でつぶやいた声すら、どことなく枯れているような気がしてしまい

「痛むんじゃないのか?」

『ちょっと…』

どんな他愛ない話でも

いつも楽しい物語に変えてしまう、ある意味魔法のような声が恋しくて

「治してやるから、じっとしてろ。」

そっと胸に抱き寄せた甘い香りの誘惑に負けぬよう、細い喉元に翳した右手に意識を集中させる

しばらくすると

「もう痛くない…かも」

聞き慣れた優しくて心地よい音色に耳、というより胸の奥をくすぐられたが

「かもって、なんだよ?」

はっきり治ったと言わないことに不満を隠さない俺の唇を掠め取るように、柔らかい唇が一瞬だけ触れてすぐに離れた

「これでほんとに大丈夫。もしかして、わたしがしゃべらないから寂しかったの?」

「べつに、ちょっと変な感じがしただけだ。」

咄嗟に誤魔化したものの、不意打ちのキスに加えて真実を言い当てられ動揺してしまった俺の内心を見透かすように

「そっか、そっか。やっぱり寂しかったんだぁ。」

「違うって言ってるだろ。」

嬉しそうにからかってきた彼女の唇を塞ごうとしたところで、邪魔が入った

「予鈴、鳴ってるね。」

すっかり忘れていたが、学校の休み時間だった

「サボるか?」

「ダーメ!ほらっ、教室に戻ろう。」

そんな気の利かない一言でさえ、甘い調べに聴こえるなんて

「どうかしてるよな。」

「なにが?」

「俺は馬鹿だってこと。」

「うん、だから授業は受けなきゃね。」

部室から出て駆け出した彼女の声は、雲ひとつない青空に光を浴びて吸い込まれていった




fin



※『sweetest tune』ってタイトルをつけたかっただけです笑い泣き
ご存知かもしれませんが6月11日発売🐯すごく良い曲で大好きなんです♬