『13日の金曜日 3』
えっと
『それはない』ってどういう意味?
いつのまにか
草の上に寝転んでいたおとうさんは、眉間にしわを寄せぎゅっと目を閉じている
「あいつとはもうすぐ別れるんだから、そんなこと絶対にありえないんだよ。」
ああ
あたしをちゃんと、おかあさんの娘だって認識してくれたんだ
だから、おとうさんは未来の自分におかあさんによく似た娘なんているわけないって思っちゃったのか
「ねぇ、ほんとにおかあさんと別れちゃうの?種族が違うからってだけで、なんでダメだって決めつけちゃうの?」
「ダメに決まってんだろ!住む世界も生きる時間もまったく違うんだぞ。」
「だったらおかあさんが人間になればいいじゃない。あたしの先生はそういう薬も作れるって言ってたよ。」
「ダメっつったら、ダメなんだよ。」
強情なんだから
「おかあさん、泣いちゃうよ?」
目を開けて起き上がったおとうさんの肩が、わかりやすくピクっと動いた
「だろうな。」
「きっと、死ぬほど泣いちゃうよ?」
「……」
あれっ、今度は黙っちゃった
「じゃあ、おとうさんはおかあさんが他の人と結婚しちゃってもいいの?」
「いいわけねぇだろ!あっ、いや違う…っていうか俺はおまえの父親じゃねぇ。」
めんどくさっ!
「おとうさんて、やっぱりあたしに似てるよね。」
「は?」
「あっ、逆か。あたしの性格が、おとうさんにそっくりなんだよね。」
「俺はおまえの父親じゃねぇって言ってんだろ。」
そんなこと言われたって、おとうさんはおとうさんだもん
まぁ、いっか
「あのね、あたしも少し前に年上のカレが若返って本当の年齢に戻っちゃったから…しばらく現実を受け入れらなくて、ひどいことばっかり言って傷つけちゃったんだ。」
「いったい、なんの話だよ?」
「だから、あたしって見た目はおかあさんに似てるけど意地っ張りなところはおとうさん譲りだって言ってるの。」
「なに言ってんのか、さっぱりわかんねぇよ。」
だよね
しょうがない
おとうさんもめちゃくちゃ苦しんでたみたいだし、ちゃんとおかあさんを幸せにしてあげたんだから許してあげようっと
でも、他にもなにか言っておくことがあったような
「そうだ!明日の約束、忘れないでね。」
「おいっ、約束って…」
あっ、まずい
目を覚ましかけたおとうさんに、最近習った記憶をす魔法をかけて
慌てて夢の外に飛び出すと、元いた世界の我が家へと帰って来た
ところが
「こんな時間まで、どこでなにしてたんだ?」
玄関の前で、おとうさんが怖い顔をして立っている
「えっと、魔女の修行に…」
「過去の世界に行ってたんじゃないのか?」
「!」
なんで?
おとうさんの記憶はちゃんと消したはずなのに
「半人前の魔女のくせに大した自信だな。」
「まさか、覚えてるの?」
「昨日まではなかった記憶が蘇った。」
どうしよう
明日は外国で暮らしているカレが来年の受験の準備も兼ねて久しぶりに帰国するから、空港までおとうさんに送ってもらう予定だったのに
「罰として、明日は送ってやらないからな。」
やっぱり、そうきた!
「そんなぁ。」
「俺がただの夢だと思い込んでやり過ごしたから良かったものの、危うく未来が変わるとこだったんだぞ。」
それは、そうなんだよね
「ふたりとも、どうしたの?玄関なんかで話しこんじゃって。」
「おかあさん、あのね…」
お玉を片手に現れた救世主に、助けを求めようとしたら
「なんでもない、明日の飛行機の到着時間を確認してただけだ。」
あたしの頭を強めに叩いて、おとうさんは家の中に入っていった
へ?
「送って…くれるの?」
返事のない背中はまだ怒っているみたいだったけど
夕食後
おかあさんが作った誕生日ケーキは、とっても幸せそうな顔で食べていた
fin
※ちょびっとでも読んでくださった方、ほんとにお疲れ様でした