※今回は高校1年が終わった春🌸の設定で(←どうでもいいタラー

    



                『cherry blossom』






「いい天気だな」


まるで台風のような強風が吹き荒ぶ公園で、大きく伸びをしながら彼が言った


「えっと…どこが?」


もうすぐ4月だと言うのに、冬物のコートを着てくれば良かったと思うほど寒いうえに


「まぁ、こんなに気温が低けりゃ桜も咲かねぇだろ。」


お花見に来たというのに、肝心の桜が全然咲いていないなんて


「おかしいなぁ、テレビの開花予想じゃ今日くらいには咲くって言ってたのに。」


「外れることもあるだろ、自然が人間の予想通りになるわけないし。」



それはそう、なんだけど



この春もボクシングやバイトで忙しい彼と、桜が咲いている期間にデート出来る日が今日を逃したらあるかどうかわからなかったから


「暖かい日中にゆっくりお花見したかったんだけどなぁ…残念。」


「もう少ししたら咲きそうだから、友達か家族とまた来ればいいだろう。」


うーん


それもそう、なんだけど


今年はなんとなく2人で桜を見たい気分だった


ここ数年ずっと魔界の騒動に振り回され続けていたから、こんな穏やかな気持ちで春を迎えるのは久しぶりだったんだもん


それと


「アレをやってみたかったの。」


「アレ?」


なにかを察したのか、彼は眉間にシワを寄せて嫌な顔をして


「だから、ほらっ…ドラマとかでよくあるじゃない?女の子が桜を見て『きれいね』って言ったら、恋人が『おまえの方がきれいだよ』って言うやつ。」


わたしの言葉を聞いた瞬間、口元を手で覆ってその場にしゃがみこんでしまった


わ、笑ってる?


それとも呆れてる?


もしかしたら怒ってる?


「あの、冗談だってば…ごめんなさい」


いつまで経っても下を向いまま立ち上がってくれない彼が心配になって謝ると


「ふっざけんなよ、馬鹿」


真っ赤な顔を隠すように、そっぽを向いてわたしの頬を軽くつねった


ああ


照れてた、のね


「…そんなことより、落武者みたいになってるぞ」


変な咳払いをしてから、ようやくこっちを向いた彼が笑った


結んでいなかった長い髪が強風に晒され、乱れているのはさっきからわかっていたけれど


「落武者って…ひどい」


「ひどいのはどっちだよ、とにかくこれでなんとかしろ」


「えっ?」


彼は長い指で髪を優しく梳いてくれながら、ポケットから取り出した小さな何かをわたしの手に握らせた


「これって…」


そっとひらいた手の中にあったのは


「さ、桜?どうして?」


淡いピンクの桜の花が散りばめられた美しいバレッタ


「花見に来たのに桜がないと、寂しいだろ?…あっ。」


照れくさそうに空を見上げた彼が小さく声をあげた


「どうしたの?」


「桜、咲いてるぞ」


もらったバレッタで髪をとめてから、すぐそばにあった木の枝に視線をやると


「ほんとだ…」


たしかに、一輪の桜が可憐な花を咲かせていた


「きれい、だね。」


思わず口にしてしまったわたしの頬は、再びつねられることになり


「絶対に言わないからな」


「えーっ?」



髪を束ねた桜から春の日差しのような温もりが伝わってきた




fin





タイトル見た瞬間「でしょうね!」と思われた方の心の叫びが聞こえるようです笑い泣き

次回は間違いなく来月になりますが、気長に待っていただけたら幸いです💕