※今回は婚約中のお正月のお話になります。



                        『touch 1』




「飲み過ぎるなよ」

パジャマ姿でビールを注いだグラスを軽く触れ合わせながら忠告すると

「はーい」

と、素直に返事をしたくせに

「あれぇ?なんだか体がふわふわしてる」

言わんこっちゃない

二杯目を飲み干したところで、すでに彼女の瞳は焦点がぼんやりとしている

忙しい年末をなんとか乗り切り

春に結婚を控えているためお互いの家族への挨拶で元日は潰れ、初詣を終えた2日の夜になって

「お正月だし、たまには飲まない?」

ようやくアパートの俺の部屋で過ごす時間が出来たため、彼女も気が緩んだのだろう

家から持って来たおせち料理をつまみに新年会をしようと言い出し、飲み始めたのはいいのだが

さっきから肩にもたれかかったり、腕を絡めてきたりとスキンシップが徐々に激しさ増していき

「おいっ、こら…」

ついには胡座をかいている俺の膝の上に頭を乗せて、寝っ転がってしまった

これは単に酔ってるから、なんだろうか?

それとも

「…なんかあったのか?」

12月は多忙を極めてあまり構ってやれなかったせいで、口には出さなくても寂しかったのかもしれない

そんなことを考えながら長い黒髪を撫でていると

「ねぇ、初夢って見た?」

急に驚くほどはっきりとした口調で聞かれ

「見てない、ていうか覚えてない」

とっさに誤魔化しはしたが、心臓は正直に鼓動を早めた





新年も2日が過ぎた寒い夜

久しぶりに彼とふたりきりの時間を過ごせるのはとっても嬉しかったのだけど

酔っているフリ…とまではいかないけれど、アルコールの力を借りて彼の体に触れていないと不安だったのは

春に予定している結婚式にいつまで待っても彼が現れない、っていう心臓に悪い初夢を見たから

もちろん、普段だったらそんなことくらいで動揺なんかしないんだけど

よりにもよって、結婚する年の初夢にしては縁起が悪過ぎる気がして朝から心がざわついて

彼が目の前から消えてしまないよう、この手でしっかり捕まえておきたかった
 
でも

「先に風呂入ってて正解だったな、酔っ払いはさっさと寝た方がいいぜ」

いつもと変わらない様子で、優しく頭を撫でてくれる大きな手の温もりにすっかり安心したわたしは

「眠くなんてないもん」

彼の膝の上に座り直して、たくましい胸に顔を埋めた




continue(次回に続きます)↓