『meet up 2』




待ち合わせの時間から、たった5分過ぎただけなのに

さっきから数十秒置きに腕時計を見てしまう自分を落ち着かせようと、大きく深呼吸をする

冷たい北風が吹きつける公園の片隅


見上げた冬の空は見事なまでに鉛色をしていて、滅入っている気分をさらに悪化させていく


もしもこのまま彼女が来なかったら


そんな思いに駆られてしまうのは、昨日のちょっとした出来事のせいだ

べつにケンカと呼べるほどの言い争いをしたわけじゃない

むしろ、ちゃんとしたケンカだったら容易に謝ることが出来たのかもしれない


『明日、無理しなくてもいいよ。』


珍しく彼女の方から誘って来た日曜の予定を

「ただのお買い物だし、その…」

ここ半月ほど学校の期末考査にジムでの練習や長時間のバイトが続いたため、無意識のうちに疲れが表情や態度に出ていたのだろう

「時間がある時で大丈夫だから。」

久しぶりのデートをキャンセルしようと言わせるほど気を遣わせている自分自身に苛立って

「いいって、ちゃんと行けるって。」

棘のある口調になってしまった俺の言葉に言い返すこともなく

「…じゃあ、正午に公園で待ってるね。」 

別れ際まで押し黙ったままだった唇が、小さな声で告げた時刻を10分ほど過ぎたころ

「お待たせ。」

「!」

ようやく現れた彼女の姿に息を飲んだ

目にも鮮やかなオレンジ色のコートとギンガムチェックのミニスカートは灰色の景色をカラフルな世界に一変させ

「ごめんなさい、遅刻しちゃった。」

駆け寄って来る笑顔の後ろで大きく揺れるポニーテールは心を曇らせていた霧を簡単に吹き飛ばした

「…いや、俺も今来たところだ。」

約束の時間より30分も前からここにいたことを知られたくなくてついた嘘は

「ほんと?すごく冷えてるじゃない。」

遠慮がちにつながれた小さな手の温もりに暴かれてしまう

「いいから行くぞ、買い物って何が欲しいんだ?」

「んっとね、怒らない?」

不穏な言葉に、ゆっくりと歩きながら握り直した手に力が入る

「俺が怒るような物を買いに行くのか?」

「あのねクリスマスツリー、ちっちゃいやつでいいんだけど。」

「は?」

クリスマスツリーでなんで怒るって思うんだ?

「だから、その…アパートの部屋に飾ったら少しは季節感が出るんじゃないかなぁって。」

つまり、俺の部屋に置きたいってことか

「悪かったな、殺風景な部屋で。」
 
「やっぱり、ダメ?」

「寝る場所が無くなるから、ほんとに小さいやつだぞ。」

「いいの?ありがとう。」

昨日の今日でなければ、或いは却下していたかもしれない願い事をあっさり受け入れてしまったのは

「で、遅れて来た理由は?」

「えっと、髪が上手くまとまらなくて。」

「ふーん。」


おそらくわざと遅刻して来た彼女の作戦勝ち、ってことにしておいてやるか




fin



※待ち合わせ場所は『巌流島』ではありません笑い泣き
やっぱり私にはふたりがケンカするお話をつくるのは一生無理そうですタラー
待ち合わせ夏バージョン(?)はこちら下矢印