『meet up』
失敗した
日曜の午後、彼女と買い物に行く約束をしてバイト先の最寄り駅の前で待ち合わせをしていたのだが
バイトの時間が長引いて待ち合わせの時間に30分近くも遅れてしまった
もちろんその程度の事なら彼女は許してくれるだろうし、待っていてくれるはず
問題なのはその駅だ
不良の多い男子校のすぐ側にあるのを忘れていた
急いで待ち合わせの場所に駆けつけると、つばの広い真っ白な帽子に淡いブルーのミニスカート姿の彼女を見つけた
まだ数メートルの距離があるため向こうは俺に気がついていないのか空を見上げて何とも言えない幸せそうな顔で微笑んでいる
「悪い、遅くなって」
声をかけるとこっちを向いてさらに嬉しそうな顔をして「ううん」と言って笑っている
さすがにこれは変だろう
この炎天下に30分も待ち合わせに遅れてきた恋人に向けられる表情じゃない
「何かあったのか?その、待ってる間に」
「えっ、何で分かるの?えっとね、近くの高校の男の子に何度かナンパされちゃった」
やっぱり、畏れていた事が起きていた
「ちょっと待て、それでどうしたんだ?」
「もちろん、断ったよ。しつこく誘って来る人もいたけど…」
ちょっと口ごもった彼女に詳しく聞くと待ち合わせてる相手が俺だと言って追い払ったらしい
なるほど、その手があった
この辺でボクシング部のある高校に通ってる男なら俺の名前を知っている奴は多いだろう
「ごめんなさい、勝手に名前を出したりして」
「いや、こっちこそごめん。待ち合わせじゃなくて家まで迎えに行けば良かった」
「えっ?わたしは楽しかったよ、待ち合わせ」
「こんなに待たされた上に危ない目にあったのに何言ってんだよ」
「だって待ってる間ずーっと考えてられるんだもん。会ったらどこに行こうとか、何を話そうとか、新しいスカートに気がついてくれるかなぁとか」
そうか
それであんなに幸せそうな顔で笑っていたのか
「おまえって…」
「あっ、それ以上言わなくっていいよ。どうせ馬鹿だって言いたいんでしょう?」
俺は言葉が見つからず彼女の手を取って歩き始めた
「いいの?人がいっぱいいるのに」
たしかに俺らしくないかもしれない
人でごった返す昼間の街中で彼女を抱きしめたくなるなんて
待ち合わせも悪くないかもな
fin