『brightest』




もうすぐ12月だということを忘れそうになるほど暖かな午後

「ふぁ…」

窓際の席で陽の光を浴びているとあっという間に睡魔に襲われ、あくびを噛み殺した

呪文のようにしか聞こえない教師の話など頭に入ってくるはずもなく、2階の教室から眼下の中庭に目をやると
 
「!」

木々の間にあるベンチに座って写生をしている生徒たちの中に彼女を見つけた

時折り隣にいる友人に笑顔で話しかけながら真剣な表情でスケッチブックに向かっている姿に、授業中だというのに吹き出してしまいそうになる

人のことは言えないが、彼女に絵心があるとは言い難い

『どんな傑作を描いてることやら…』

思わず心の中でそうつぶやいた瞬間

突然こっちを見上げてにっこり笑った彼女と目が合い、慌てて視線を逸らして頭を抱えた


案の定


「ねぇ、さっき中庭から手を振ったの気がついた?」

放課後、一緒に下校していた彼女にそう聞かれ

「いや…さっきって、いつだよ?」

なんと答えたらいいのか分からずに、咄嗟に嘘をついてしまった

「美術の授業で中庭にいたんだけど…あれぇ?教室の窓からこっちを見てたと思ったのになぁ」

「外は見てたかもしれねぇけど」 

「なぁんだ、わたしの勘違いだったのね」

「そう、だな」

できるだけ平静を装い言葉を濁してみたものの、心臓は正直に鼓動を早める

いったいいつからだろう

彼女がいる場所が、そこだけ光に包まれているように輝いて見えるようになったのは

「…最初から、か」

どこで何をしていても、すぐにその存在に気づいて視界に入れてしまうのはやはりそう言うことなんだろう

「えっ?なあに?」

うっかり口に出した独り言を不思議そうに聞き返され、再び誤魔化す羽目になる

「子どもの落書きみたいな絵は、最初からやり直さないと上手くならねぇって言ったんだよ」

「自分だって下手なくせに」

「おまえよりはマシだ」

「えーっ?そんなにひどいかなぁ、わたしの絵。」

「画用紙の無駄遣いだろ」

「……」

「ごめん、言い過ぎた」

膨れている頬をそっと手の甲で触れて謝ると

「もう」

たちまち笑顔に戻った彼女は冬の陽だまりよりも暖かく

昔は認めたくなくて目を逸らしていた気持ちとは裏腹に、無意識のうちに瞳に映している眩しい光の正体は



やはり『恋』とかいうやつなんだろう




fin