※ハロウィーンのお話🎃です。ねねちゃん(幼稚園児設定)登場バージョンなので苦手な方はご注意を
『princess halloween』
10月最終日の夕方
「ただい…」
玄関に入り、靴を脱ごうと前かがみになった瞬間
「じいじ!!!」
飛びかかるようにして抱きついて来た生き物は
「シンデレラか?」
「ちがーう!し・ら・ゆ・き・ひ・め!」
近所に住んでいる息子夫婦の一人娘で、自称『白雪姫』の幼稚園児だ
「わかったから、ちょっと離れろ。」
まとわりつかれては靴紐が解けやしない
「とりっく、なんとか、とり…なんだっけ?」
「お菓子だろ?ちゃんと買って来たから、ご飯の後でな。」
真っ赤なリボンをつけた小さなお姫様と買い物袋を抱えてリビングに向かうと
「あっ、おかえりなさい。子どもたちがまだだから、ご飯はもう少し待ってくれる?」
テーブルいっぱいに、やたらとカボチャの料理を並べていた彼女が笑顔でこちらに近寄って来た
『子どもたち』と言うのは…もう子供でもなんでもない息子と娘、そしてそのパートナーたちのことだろう
「なんでそんなに張り切ってんだよ?ハロウィーンなんて日本人には関係ねぇだろ。」
「えーっ、それを言ったらクリスマスだってそうじゃない。今日は幼稚園でもハロウィーンパーティーをやったんだから…ねぇー♡」
腕から降ろした『白雪姫』に彼女が笑顔でウィンクをすると
「ねぇー♡」
こちらも嬉しそうに、くるっと回転して青と黄色のドレスを得意げにひらひらさせている
「つまり、幼稚園から直接うちに連れて来た…ってわけか。」
「ようちえんのはろいーんぱーてぃーに、ばあばもきてくれたんだよ。」
「パパとママはケーキを買ってから来るって言うから、ばあばと先に帰って来たのよねー♡」
「ねぇー♡」
さっきから何度も顔を見合わせては微笑み合う妻と孫娘は本当に仲が良く
「そのドレスも、どうせおまえが作ったんだろ。」
最近、夜遅くまでミシンで縫っていたのはこの可愛いらしい衣装だったに違いない
「不思議の国のアリスと迷ったんだけど、やっぱりお姫様の方がいいかなぁって。」
「…ご苦労なことで」
そんなこんなで
久しぶりに家族全員が集まっての賑やかな夜はあっという間に更けていき
「バイバイ、じいじ。」
「あぁ、またな。」
来客がいなくなった家の中は、いつもの静けさを取り戻した…はずだった
パーティーの片付けが終わり、風呂から出て来た彼女の姿を見て不覚にも固まってしまうまでは
「!?」
「な、なあに?なんかおかしい?」
いつもはパジャマしか着ない彼女が身につけている真っ白なネグリジェには、襟元や裾に大きなレースの飾りがあしらわれていて
「まさか、なんかのお姫様の仮装じゃないだろうな?」
「ち、違います、でも…」
「なんだよ?」
「良く考えたらうちの家族って、仮装なんかしなくったってみんな本物のお姫様や王子様なのよね…」
「はあ?」
「だって、全員王家の血をひいてるわけでしょ?わたし以外は。」
また訳の分からない事を言い出した彼女に心の中でため息をつく
「それがどうした?」
「だから、わたしも今夜はちょっとだけお姫様っぽくしてみようかなぁって。」
「…おまえは一体いくつなんだ?」
「ひどっ!とりあえず、まだ40代なんですけど。」
「ギリギリ40代、な。」
耳元で囁いた少し意地悪なセリフは、さっきから目のやり場に困っている夫の照れ隠しだと気づいてはいないのだろう
「えっ!?ちょっと?」
いわゆる『お姫様だっこ』をして寝室に運んだ彼女をベッドに降ろし、艶やかな唇を親指でなぞる
「残念ながら…」
「えっ?」
「うちのお姫さんたちは、そろいもそろってお転婆で気が強くて一筋縄じゃいかないやつばかりだからな。どっちかと言えばおまえの方が…」
「へ?」
照れたような表情で王子のキスを待っている彼女に言えるはずもない
「なんでもねぇよ。」
俺にとっての『お姫様』はこの世にたったひとりしかいない、なんて
fin