『lonely trip 4』




急な残業で遅くなってしまったバイトの帰り道

夕方には修学旅行から戻っているはずの彼女の家に公衆電話から電話をすると

「出かけた…んですか?」

俺の部屋に行っているはず、と電話口に出たおふくろさんに教えられ

「あのバカ、もう10時過ぎてるぞ」

慌てて戻ったアパートの部屋の前で

「!!」

暗闇の中、ひとり佇んでいる彼女の姿を見つけて目を疑った

「なにやってんだよ、そんなとこで」

駆け寄った俺の胸に抱きついてきた華奢な体は、やはりひんやりとした冷気を纏っている

「鍵、持ってるだろ。なんで中で待ってないんだよ?」

室内に押し込むようにして、自分のテリトリーに彼女を閉じ込めた瞬間

久しぶりに腕に抱いた愛おしい温もりに、胸の奥が痺れるような衝動を抑えられず

「おかえり」

かろうじて絞り出した言葉ごと、彼女の唇に甘ったるい感情を流し込んだ


「で、修学旅行は楽しかったか?」


出来ることなら、あのままずっと腕の中に抱いていたかったが

「うん、すごく」

時間が時間なだけにそういうわけにもいかず、彼女を家まで送る途中で旅の感想を聞いていると

「もちろん、一緒に行けたらもっと楽しかったと思うけど」

「そうだな」

「あっ、大事なこと忘れてた!これ…」

「なんだよ?」

ふいに立ち止まって差し出されのは

「えっと、お土産なんだけど」

変わった形の木製の鍵に銀の鎖がついた小さなストラップで

「お守り?」

「うん、赤い鳥居がいっぱいある神社で見つけたの。『勝ち守り』って書いてあったから」

試合に勝つように、ってことか

「サンキュー」

「ううん、わたしの方こそありがとう」

そう言いながら彼女がポケットから取り出したのは、出発前に俺が渡したお守りで

「あの、これって魔力が込めてあったんでしょ?」

触れて確認するまでもなく、すでに『力』が失われていることは明らかだったが

「そんなことしてねーよ」

なんでバレたんだ?

「嘘!だってあるお寺でね、木の上にいたお猿さんと目が合っちゃって」

「猿?」

「危うく飛びかかられるところだったんだけど、突然木の枝が折れてお猿さんが逃げて行ったの」

ちょっと待て、それは

「関係ねぇよ」

「だって、このお守りを握りしめてたんだもん…その時」

「偶然だ、偶然」

「え〜っ、ほんとに?」

信じていない様子の彼女に渡したお守りに込めた『魔力』の真相はというと


旅行中に極力、俺のことを思い出さないようにするためのもの


効き目があったかどうかは神のみぞ知る、だがな



fin



※以上、修学旅行味ゼロの内容でお届けしましたタラー今回は『彼』が行かないパターンでやりましたが来年の今頃、しれっと一緒に行くお話書いてたら笑ってください笑い泣きお読みいただきありがとうございましたハート にあ
 


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