『lonely trip 3』
なんだかんだ言って
彼がいない修学旅行は、想像していたよりもずっと楽しかった
古都と言われる観光地は街並みも寺院も鮮やかな紅葉に彩られ、絵画のように美しかったし
宿泊した旅館の部屋では、毎晩遅くまでクラスメートと他愛もない話で盛り上がり
彼に会えない寂しさを思っていたほど感じないまま、あっという間に1週間の日程が過ぎて行ったのに
「今夜は会えるかな?」
帰路に着いた途端、どうしようもなく彼が恋しくなってしまい
「ただいまー」
夕方、家族の待つ家に帰りすぐに着替えを済ませると
「いってきまーす」
通い慣れたアパートへと、足が勝手に向かっていた
ところが
「遅いなぁ」
合い鍵で入った部屋の中でしばらく待っていたけれど、いつまで経っても帰って来る気配がなくて
「どうしたんだろ?」
居ても立っても居られずに、すっかり暗くなった玄関の外で彼が戻るのを待つことにした
日中は暖かく感じた気温も、夜になるとかなり冷え込んでいて
「さむっ…」
わたしが旅先ではしゃいでいた間も毎日こんな時間までバイトをしていたに違いない彼を思い、胸の奥に鈍い痛みを覚えた時
「あっ!」
アパートの外階段を上がって来る足音が聞こえ
「なにやってんだよ、そんなとこで?」
気がつけば、驚いた顔で足早に近づいて来た彼の胸に飛び込んでいた
「えっと、ただいま」
「ただいまじゃねーよ、体が冷えきっちまってんじゃねぇか」
わたしを胸元に抱いたまま、片手で開けたドアから部屋の中に入った次の瞬間
「あ、あの…」
ふたりで立っているのがやっとの狭い玄関で靴を履いたまま、きつく抱きしめられたかと思ったら
「おかえり」
掠れた声と優しいキスで唇を塞がれた
「!」
永遠に続いて欲しいと願わずにはいられないほど甘い時間はすぐに終わりを告げ
「送ってく」
口元を手で覆い視線を逸らした彼が照れくさそうに、わたしを解放して背中を向けた
continue(次回に続きます)↓