『back 5』




「後ろから…ってのもそそられるけど」


上半身を捻った態勢で交わした背中越しのキスに、すっかり酔いしれているわたしの耳元で囁くと


「へ?」


彼はわたしの体をひっくり返して仰向けにすると、頬に熱い手のひらを押し当てた


「やっぱり、こっち向いててくれ」


いつのまにか灯されていたベッドサイドの明かりに浮かぶ、色を帯びた眼差しに心臓が破裂しそうなくらいドキドキして 


「えっと?」


それって、つまり?


「ちゃんと顔見てしたい、って言ってんだよ」


「!」


言葉を失ったわたしの唇をなぞる長い指先が、彼が照れていることを教えてくれる


「あの、ごめんね」


胸の膨らみに移動した手が妖しい動きをし始めた時、さっきからずっと言いたかった言葉を口にすると


「なにが?」


彼は怪訝そうな表情で再びわたしの顔をのぞき込んだ。



「えっと、寝ちゃったり…いろいろ。」



「はぁ?」



だって聞こえちゃったんだもん


「さっき、怒ってなかった?サイアク…って」


半分眠っていたけど、耳元で彼の声がしたのをはっきり覚えてる


「バカ、あれは…」


「?」


「あの頃から全然成長してない自分に腹が立っただけだ」


あの頃って、どの頃?


「何も出来ないガキのくせに『絶対守ってみせる』とかなんとか大口叩いてた頃」


あ、ああ


わたしがさっき海を見て思い出した12歳の時、かな?


「すごく頼もしかったよ、子供の頃も…もちろん今も」

 

「そいつはどうも」


誤魔化すような言い方をして苦笑い浮かべた彼にきつくきつく抱きしめられ


「あっ、やっ…」


寄せては返す波のような彼の動きがもたらす、体の芯まで溶けてしまうような快感に溺れながら


たくましい背中に回した両手に、思い切り力を込めてしがみついた



翌朝



朝食を食べてホテルをチェックアウトすると


「わぁ、きれい」


穏やかな波にキラキラと反射している眩しいくらいに輝く朝日が目に飛び込んできた


「いいお天気だね、帰りたくなくなっちゃう」


「また連れて来てやるから」


「ほんと!?」


「たぶん、な。とりあえず帰ろう」


「はーい」


いつもの生活へと戻って行くわたしたちの背中を優しく照らし続けていた





fin(終わり)





PVアクセスランキング にほんブログ村