『back 3』
「えっ!?」
そこそこ大きな声を出したにも関わらず、微動だにせずベッドの上で寝息を立てている彼を見て
「もう…」
激しい雨が窓を叩き続けるホテルの部屋の真ん中で、わたしは力なく笑ってため息をついた
遡ること1時間前
フロントで鍵を受け取った彼に手を引かれてエレベーターに乗り、部屋に入った時の緊張感は何だったのだろう
「先に汗、流して来る」
部屋の真ん中に置かれたダブルサイズのベッドに気まずい空気が流れ始めたせいか、すぐにバスルームに消えてしまった彼のジャケットをハンガーに掛けようとして
「?」
ポケットから落ちたメモ用紙を拾ってみると、見覚えのある文字で書かれていたのは
「あっ!?」
おそらくホテルの住所と電話番号、最寄駅からの簡単な地図と
「この部屋の番号も、っていうことは」
やっぱり最初から泊まるつもりで予約してくれてたんだよね
「ほらっ、おまえもさっさと風呂に入って来い」
いつのまにか後ろに立っていた彼はわたしの手からメモ用紙を取り上げ、バツの悪そうな表情で言ってから視線を逸らした
「あっ、うん…ていうか」
わざわざ持って来ていたのだろうスエットの下は身につけているものの、上半身は肩にタオルをかけているだけの背中に
「嬉しい、ありがとう」
再び抱きついて顔を埋め、少し高めの体温を心地よく感じながらお礼を言うと
「さっきも聞いたよ。シーズンオフの日曜の夜だから空いてたし、大した値段じゃねぇから気にするな」
強引に体を反転させた彼に唇を重ねられた
「んっ…」
始めは軽く触れるだけだったキスは、絡めあった指先に痛みを覚えるほど熱を増していき
「もう、風呂は後からにしろ」
スプリングの効いたベッドに押し倒されながらレースのボレロを剥ぎ取られて、ワンピースのチャックまで降ろされそうになり慌てふためいた
「ダメ、お風呂に入って来るからちょっと待ってて」
「待てないようなことしてきたのはそっちだろ」
「いや、その…だって」
「ったく」
なんとか彼のたくましい腕から解放してもらい
「すぐに戻ってくるから、ね?」
ベッドの上に置かれていたバスローブを持ってシャワーを浴びに行き、髪を乾かしてから戻ってみると
「寝ちゃったのね」
王子さまはベッドの隅っこで仰向けになって熟睡していて
えーっと、どうしよう?
とりあえず
上半身に何も着ていないままの彼が風邪を引かないようにお布団を掛けてあげて
「わたしも寝よおっと」
ふたりで寝てもスペースが余ってしまう大きなベッドに潜り込むと
「…ん」
ふいに寝返りを打ってこちらに向けられた大きな背中にそっと寄り添うようにして
「おやすみなさい」
とっても幸せな気持ちで瞳を閉じた
continue(次回に続きます)↓