『propose〜after story〜3』




ほんとうは

今夜、彼に抱きしめられた瞬間から

普段なら怖くて仕方ない雷の音でさえ、全く気にならなくなっていた

そんなことよりも

躊躇うことなくわたしのすべてを暴いていく、熱い手のひらがもたらすゾクゾクするような感覚から逃れようと身体を捩るたびに

「頼むから、じっとしてろ。」

耳朶を甘噛みしながら懇願する掠れた声すら、どうしようもないくらい愛おしくて

これ以上彼を好きになったら

心が破裂してしまいそうで怖かった

でも

「ううん、やっぱり怖くない…怖くないから、壊れるくらい好きでいさせて。」

ああ、わたしってなんでこんなに馬鹿なんだろう

こんな単純な気持ちすら上手く言葉に出来ないなんて

「馬鹿じゃねぇの…」

ほら、彼もすごく呆れてる

「うん…でもほんとにそう思ったの。」

もう、どうなってもいいやって思いながら溢した本心は

「わかってる…俺も同じだ。」

燃えるように熱い体ごと、力強い腕に抱きしめられた





ずいぶん前から


彼女と気持ちが通じ合っていたのに手が出せずにいたのは

感情に身を任せたその先に、自分がどうなってしまうのか想像することさえ出来なくて

無垢な彼女を傷つけてしまうんじゃないかと情けないらくらいに怯えていたからだ

「わたしと、おなじ?」

「…それ以上かもな。」

「えっ?」

珍しく素直な俺の言葉に驚いたのか、半開きになった小さな唇を喰らい尽くすように激しい口づけをすれば

「んっ…あっ。」

絶え間なく零れ落ちる甘ったるい吐息に耳を侵され、我慢出来ずに彼女の最奥に熱を沈めていく

「ら…」

こんな時くらいしか呼ばない名前を口にすると、背中に爪を立ててしがみついている細い体が痙攣するように小刻みに震えたことに驚いて

「あっ…つ。」

火傷しそうなくらいに熱い体内で、薄い膜越しに絡みつき容赦なく襲いかかってくる激しい渦に飲まれていった

どれくらい眠っていたのだろうか

ふと、カーテンの隙間から覗く空がうっすら明るくなっているのに気がついた
 
「朝、か。」

雨上がりの空気は真夏だというのに驚くほど冷んやりとしていて

「……」

隣でぐっすり眠っている彼女が何も身に着けていないことが気になってしまう

辺りを見回して手の届くところにあった俺のシャツを肩に羽織らせようと、無防備な上半身を少しだけ抱き起こした途端

「えっ!?やっ…」

目を覚ました彼女は何を勘違いしたのか慌てて胸元を腕で隠している

「ばっ!違う、馬鹿。風邪引かないように着せてやろうとしただけだ。」

「そうなの?ごめんなさい…でも。」 

「なんだよ?」

俺の手から受け取ったシャツに袖を通しながら怒ったような表情で彼女がつぶやく

「そんなに何度も馬鹿って言わなくったって。」

言われてみれば

たしかに昨夜から結構な回数、口にしていたかもしれない

「わたしって、そんなに馬鹿だと思う?」

薄いシャツを1枚着ただけの体で抱きついて上目遣いにそんなことを聞くのは、どう考えても

「馬鹿に決まってんだろ。」

「ひっど…」

言いかけた彼女に唇を重ねると

着せたばかりのシャツを脱がせるため、小さなボタンに手をかけた俺も


彼女以上に大馬鹿だろう




fin




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