『propose 6(白雪姫)』
「あっま…」
ひとりの部屋で
冷蔵庫にあったリンゴジュースを口にしてその甘さに驚いた
彼女が最近気に入っていたためなんとなく買い置きしていたのだが、自分で飲むのは初めてだった
「なんでこんな甘ったるいもん平気で飲めるんだ?」
女というのはつくづく理解出来ない生き物だと思う
指輪のサイズは奇跡的に測ることができ、すでに注文を済ませて彼女の誕生日までには間に合いそうだ
しかし
肝心のプロポーズ当日の予定はというと
「俺の手料理って…いったい何考えてんだよ、あいつ」
人気のテーマパークや景色のいいレストランでなら、口下手な俺でもその場の雰囲気に力を借りてプロポーズ出来るかもしれない
そんな甘い考えは、彼女に誕生日の希望を聞いてしまったせいで木っ端みじんに打ち砕かれた
こんなボロアパートで、中学生の家庭科レベルのメニューしか作れない俺の手料理を並べたところでムードも何もあったもんじゃない
でも、まぁ
「あいつらしい、か」
問題は
「どのタイミングで切り出すか」
そして
「なんて言えばいいんだ?」
あの日
バイト帰りに会いに行き、たまたま眠っていた彼女の薬指のサイズを確認したあと
早々に別れを告げて部屋を出ようとした俺の背中に顔を埋め、今にも泣き出しそうな声で
『わたしのこと、好き?』
彼女が絞りだすように彼女が発した言葉に胸がしめつけられた
言葉なんかでは、彼女に対する気持ちはとても言い表すことが出来ない…というのも決して嘘ではないが
単純に照れくさいから、というのがいちばんの理由なのだから無理をしてでも言ってやるべきなのだろう
愛していると
結局いつものようにはぐらかしてしまった情けない男でも、さすがにプロポーズだけはしないわけにはいかない
そう覚悟を決めて、迎えた彼女の21歳の誕生日
無事にプロポーズは成功した
想像していたものとはかけ離れた、気絶しそうなくらい恥ずかしい状況下でのプロポーズになってしまったのは自業自得だが
彼女の方から『帰らない』と言わせてしまったのは最悪だった
緊張と不安で真っ赤になって震えていたその表情は、今思い返しても可哀想なくらい怯えていて
さすがにここから先は、こっちがリードしてやらなければマズイことくらい分かってる
禁断の果実にも似たこの世にたったひとつの甘い誘惑に逆らうのをやめた俺は
薬指にはめてやった指輪を見つめて涙ぐんでいる白雪姫を、そっと胸に抱きよせようとした
continue(次回に続きます)↓