『propose 5(自白)』
夢を見ていた
高校2年のクリスマスの夜
雪の中、家まで送ってくれた彼が『鍵』のブローチをプレゼントしてくれて
まるでプロポーズのような言葉を残し、走り去って行った後ろ姿に涙が止まらなかった…あの日の夢を
ふと
頬に温かい感触を感じて目を開けると
「やっと起きたか」
え?
なぜかわたしの部屋に彼がいて
「寝言で俺に文句言ってたぞ」
へ?
「冗談だよ」
はい?
「じゃあな、また来る」
ええええええ!?
「あの、いったいどうしたの?」
ほんとうに部屋を出て行こうとしている彼を追いかけ、ドアの前で腕を掴んだ
「待って、ねぇ…」
「近くまで来たから寄っただけだ。明日も仕事があるんだろ?起こして悪かった」
しがみつくようにして掴んでいるわたしの両手を優しく剥がした彼が
一瞬、わたしの左手をじっと見つめたように感じたのは気のせい…かな?
「あの、わたしたち夕食これからなの。一緒に食べていかない?」
ガールフレンドの家で勉強してから帰る、と言っていた弟を待っていたせいで、まだ食事をしていなかったのを思い出して誘ったのだけど
「昨日作ったカレーが残ってるから、帰ってそれを食べないとな」
あっけなく断られてしまい
「残念」
思わず口に出してしまったわたしの髪をそっと指で梳きながら
「おまえさ…」
なにかを言いかけたはずなのに
「いや、とにかく今日はもう帰るから」
再びわたしに背を向けてドアノブに手をかけた彼に後ろから抱きつき
「待って」
聞いてはいけないと分かっていることを聞いてしまった
「わたしのこと、好き?」
ドクン!
背中越しでもはっきり分かるくらい、彼の心臓が大きく跳ねた
わたしのバカ
この手の質問に彼が答えてくれた試しがないのは嫌と言うほど分かっているのに
「あの、違うの…」
また、困らせてしまったことに気がついて自己嫌悪に陥っていると
「…じゃなきゃ、用もないのに会いに来るかよ」
彼はため息混じりにそう言うと
「えっ!」
驚いて動けなくなったわたしを残し、振り返らずに帰って行った
continue(次回に続きます)↓