『sister』




「いいかげんに機嫌直せよ」

梅雨の晴れの午後

校舎の中庭で昼食を取りながら話しかけても

「な、なんのこと?」

しらばっくれたまま、黙々と弁当を食べ続けている恋人が

「べつに、わたしはなんとも思ってないってば」

口ではそう言っているが、穏やかではない表情をしている理由はたぶん

今朝

「おはよう」

登校途中に彼女と一緒になった直後

交差点で信号待ちをしている軽トラックの窓が開き、運転席から見覚えのある中年の男が顔を出した

「よお、あんちゃん。今から学校かい?」

男は、先週からバイトで行っている道路工事の現場監督で

「お疲れ様です」

俺が深夜に帰ったあとも、何人かは朝まで仕事をすると言っていたのを思い出して挨拶をすると

「妹さんかい?」

「えっ!?」

隣にいた彼女にチラッと視線をやった男に予想だにしないことを言われて戸惑っているうちに

「じゃあ、今夜もよろしくな」

信号が変わって軽トラックは走り去ってしまったのだが

「……」

固まってしまっている彼女に気がついて天を仰いだ


「そんなに似てるかなぁ?わたしたち」


ようやく食べる手を止めてこっちを向いた可愛いらしい顔は、どう考えても俺とはまったく

「似てないだろう」

出会ってからずいぶん経つが、今までそんな風に思ったことも無ければ誰かに言われたこともない

「じゃあ、どうして妹だと思われたの?」

「それは…」

向こうはその場の雰囲気で大して考えもせずに言ったに違いないし、こっちもあまり親しくもない人間に慌てて否定するのもおかしいだろう…と言おうとした瞬間

「でも、ちょっと嬉しかったかも」

彼女がはにかんだような笑顔を見せた

は?

「怒ってたんじゃねぇのか?」

「怒ってなんかないよ。ほら、わたしは弟しかいないからお兄ちゃんがいたらどんな感じなんだろうって時々考えてたの」
 
なんだ、それ?

「俺はおまえの兄貴だった方が良かったのか?」

「そういうわけじゃないけど、女の子ってかっこいいお兄ちゃんがいるのに憧れるっていうか…」

少女漫画の見過ぎだろ

「そっちは妹が欲しいって思ったことないの?」

「誰かさんみたいにおっちょこちょいで泣き虫な妹なんかいらねぇよ」

「もう!いじわる」

意地悪なのはどっちだ
 

昨夜


誰もいないアパートの部屋へと帰ると同時に、意識を失うように眠りにつき

願望とも妄想とも区別がつかない夢の中で

疲れきっているはずなのに何度も何度も欲望の赴くままに抱くのをやめられなかった目の前の彼女が

「…妹なわけねぇだろう」

「なにが?」

言えるか、馬鹿

「俺が老けてて、おまえがガキっぽいから兄妹に見えたんじゃねーのって言ってんだ」

「そっか、そうだね」

「俺が老けてる、は否定しろ」

「えっ!?あはは」

たしかに俺も

こんな風に無邪気に笑う天使のような妹がいたら

恋なんか出来なかったかもしれないな




            〜おまけ〜



その夜

昨日と同じ現場でのバイトを終えて帰ろうとすると

「よお、お疲れさん」

例の現場監督とすれ違ったので朝の誤解を解こうとすると、向こうから

「今朝、一緒にいたのは妹じゃねぇんだろ?」

そう聞かれて首を傾げた

「ええ、まぁ」

わかってんならなんであんなこと言ったんだ?

「朝っぱらからデートなんかするタイプじゃなさそうだから妹なのかと思ったんだが…よく考えたら全然似てなかったな」

「デートって…ただ登校してただけですよ」

制服着てたの見えなかったのか?

「なんでもいいけど、あんまり『妹』を増やさない方が身の為だぞ色男」

「えっ?」

意味あり気な笑みを浮かべた男の視線の先には

「!!」

「さっきから『妹』さんがおまえに用があるって言って待ってるぞ」

金髪にエメラルドグリーンの瞳の義理の妹が場違いなドレス姿で立っていた

「夜分遅くに申し訳ありません、アパートに伺ったらいらっしゃらなかったので」

「……」

それから

夫婦げんかをして城を飛び出して来たという義妹の愚痴を、慌てふためいた弟が迎えに来るまでアパートで聞いてやる羽目になり

さらに翌朝

さすがに寝不足で朦朧とした頭で学校へ向かう途中

「おはようございます、お兄さん」

将来、妹になるかもしれない小学生が元気に俺を追い越して行った



fin



※フィラさんとなるみちゃんはとっても可愛い妹さんだと思います照れ
以上、妹ネタで強引にまとめただけのお話でしたタラー




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