『tempest 5』





数日後


あの台風の日ほどではないが、学校にいるとまだ嫌な感じがするのが気になり

再び始業時間より早く登校すると、彼女のシューズロッカーのそばでキョロキョロしている女子生徒を見つけた

「なにしてるんだ?」

「あっ…」

驚いて振り向いた顔に見覚えがあった

1年の時に同じクラスだった女で、俺の記憶が確かなら

「先月手紙をくれた…だろう?」

うつむいた表情はイエスと言っていた

面と向かって告白された時はきちんと断っていたものの、一方的に鞄やロッカーに手紙を入れたやつのことは放っておいた俺が悪かったのかもしれないが

「ちょっといいか?」

強引に開かせた手のひらに、あの日彼女の靴に入れられていたのとまったく同じ釘を見つけてため息ついた

「ごめんなさい」

少しふて腐れたように謝った女に怒りを覚えつつも、静かな口調で言い聞かせるように話をした

「言いたいことがあるなら直接俺に言ってくれ。そっちの希望に応えられなくて申し訳ないとは思うが、彼女にこんなことをするのだけは止めてほしい」

以前の俺だったらこんな場面で怒鳴りこそすれ、頭を下げるなんてことは死んでもしなかったはずなのに

「わかった、もうしないって約束する」

彼女に危害が及ぶ恐れが無くなるなら、これくらいなんでもないと思ってしまっている自分に苦笑いするしかなかった


翌日の午後


バイト帰りに通りかかった店の前で何かを熱心に見ている彼女に気がついた

「なにしてんだよ、こんなとこで」

「あっ…えっ?」

驚いている彼女の目の前にあったのは

「十字架じゃねぇか」

「十字架っていうか、ロザリオなんだけど」

少なくとも吸血鬼が欲しがる物ではない気もしたが

「買ってやるよ、バイト代が出たし」

「い、いいよ。だってほら、うちはお父さんが…」

慌てた様子でそんなわかりきったことを言うのは俺に遠慮しているからに違いなく

「べつに、親父さんの前でつけなきゃいいだけだろう」

「それは、そうだけど」

「嫌な思いさせちまったからな、買わせてくれ」

「な、なんのこと?」

うっかり口を滑らせてしまった俺の顔を見つめている彼女が、今回の件の真相に薄々気がついていることはわかってはいるが

「なんでもねぇよ、魔除けになりそうだから持ってて欲しいだけだ」

「それって、なんか変じゃない?」

たしかに、魔界人が魔除けを持つのは

「変だろうな」

顔を見合わせて笑いながら買ってやったロザリオは

「ど、どうかな?」 

「いいんじゃねぇの」



太陽と青空が良く似合う、愛しいヴァンパイアの胸に輝いていた




fin


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