どんなことがあっても守ると決めたんだ
たとえ
命と引き換えにしても
『 tempest 1』
今にも泣きだしそうな空の下、気怠い気分で登校すると
「!」
シューズロッカーで、彼女が言葉にならない声をあげたのに気がついた
「どうした?」
「あっ、うん…上靴の中にこれが入ってて。」
怪訝そうな表情で見つめている細い指先に光っていたのは
「釘、だよね?」
銀色のかなり大きな釘だった
「釘、だな」
彼女から受け取ってみたものの他に答えようがなかったが
「怪我はないのか?」
「うん、大丈夫。でも…なんでこんな物が入ってたんだろう?」
動揺しているのが手に取るようにわかったため、咄嗟に当たり障りのない可能性を考え出した
「昨日から生徒会の連中が役員選挙の準備をしてるだろう?」
「あっ、うん」
「掲示板やなんかをあちこちに作ってたから、なんかの弾みで入っちまったんじゃないのか?」
「そっか、きっとそうだよね」
納得はしていないだろうが少しほっとしたような笑顔を見せた彼女と廊下で別れ
自分の教室で窓際の席に着くと、受け取った釘をポケットから出し頭を抱えた
魔力なんか使うまでもなく直感でわかる
これは偶然や間違いではなく、明らかに悪意を持って置かれた物だろう
わからないのは誰が、何のために?ということだ
恋人のひいき目を差し引いたとしても、彼女自身が他人に恨みを買うようなことは絶対に有り得ない
唯一、考えられるとしたら
「俺…か」
無愛想で面白みのかけらもない男のどこがいいのか知らないが、この高校に入学してからやたらと女に好意をもたれるようになり
年に何度かは女子生徒に告白されては断るという面倒くさいことを繰り返していた
さすがに昔に比べたら大人になった分、断り方もなるべく気を使ったつもりではいたが
もしかしたらあの中に、彼女に逆恨みをして嫌がらせをしようと思ったやつがいたのかもしれない
ふと窓の外を見ると
大型の台風が迫っているという空を、灰色の雲がものすごい速さで流れていた
天気予報では徐々にこの辺りからは逸れて行き直撃は免れると言ってはいたが
「用心するに越した事はないか」
翌朝
土砂降りの中、いつもよりかなり早い時間に学校の門をくぐると、見知らぬ女が彼女の教室の方へ歩いて行くのが見えた
まだほとんどの生徒は登校していない時間に、喪服のような衣装で校舎にいる女を不審に思いそっと後をつけると嫌な予感は的中した
「なにをしてる!」
『!!』
彼女の机に何かを置こうとしていた女がこちらを振り向いた瞬間、床に落とした物を見て驚いた
「おまえは、誰だ?」
転がっていたのは
銀の鎖がついた十字架だった
continue(次回に続きます)↓