『lovi'n you 2』
「やっぱり夜は半袖だと寒いね」
バイトを終えてアパートの部屋に帰ると
差し入れを持って来てくれた彼女が細い腕をさすりながらつぶやいた
今日から6月、とは言え
夏の制服姿では、冷え込んできた今夜の気温ではさすがに少し寒そうに見えた
「いちど家に帰ったんだろ、なんで着替えて来なかったんだよ?」
平日の放課後にここへ来る時も、だいたいいつも私服だったはずなのに
「だって今朝、似合うって言ってくれたから」
照れたような表情でそう言われ、心の中でしまったと思った
「あれは…」
今朝、彼女と登校途中に一緒になった時
久しぶりに見る半袖の制服から覗く、眩しいくらいに白い腕にドキッとしたのはたしかだが
夏服だろうが冬服だろうが、とにかく制服という物が全く似合わない(もちろん嫌いでもある)俺とひきかえ
「おまえはいいよな、いくつになっても制服姿に違和感がなくて」
もうすぐ20歳になるというのに、相変わらず高校の制服がしっくりくる幼い見た目を半ばからかったつもりだったのを
「都合のいい勘違いするんじゃねぇよ」
「ひどい、珍しく褒めてくれたと思って嬉しかったのに」
すっかり拗ねてそっぽを向いた彼女が、本気で怒っていないことくらいわかってはいるが
「寒いんならあっためてやるよ」
「えっ?」
驚きながらも何かを期待している様子に笑いを堪えつつ
「ほらっ、これでも着てろ」
押し入れから取り出した毛布を冷えた身体に掛けてやると
「もう」
「なんだよ?」
「一緒にあったまろ」
「!」
毛布を広げた細い腕に包み込まれるように抱きしめられ、体勢を崩して寝転んでしまったところへ
「大好き」
不意に耳元に落とされた囁きは反則もいいところだ
気がつけば、密着している体中から伝わって来る彼女の鼓動で頭に血がのぼり
毛布の中で触れ合っている肌が熱を帯びて熱くなるまで唇を重ねているうちに、ようやくさっきの返事を思いついた
「知ってるよ」
「なにそれ?」
荒い息のまま、火照った顔をあげた彼女が不思議そうに聞く
「さっきおまえが言った…」
相変わらず察しの悪いやつだ
「もしかして『大好き』のこたえ?」
わかってるなら聞くな…とも言えず
「さあな」
とりあえず
あと何百回季節が巡っても、口には出せないだろう言葉を大切に胸の奥へと仕舞い込んだ
fin
※衣替えの季節だなぁって思ったので
「知ってる」は『江藤望里の駆け落ち』に収録されている『江藤蘭世の悶々』の最終コマからいただきました
結婚して30年経っても『好き』も『愛してる』も言えない真壁くんが私は大好きです❤️