※今回のお話は愛良ちゃんがお腹にいる時の初夏(細かっ!)設定です
原作とは一切関係ない個人的妄想ですのでご理解の上でお読みください照れ



                       『scandal』




「ちょ、ちょっと待って!」

「え?」

試合が近づき、減量のためのダイエットメニューが並ぶ食卓で

冷や奴にケチャップをかけようとした彼にギョッとして大きな声を出すと、隣にいた3歳の息子まで驚いた顔をして夕食を食べる手を止めてしまった

「そんな大声を出さなくてもいいだろう」

呆れたように言いながら息子の頭を撫でている彼は、一見いつもと変わらなく見えるのだけれど

「だって、よりによって冷や奴にケチャップかけようとするんだもん」

帰宅した時からどこか様子がおかしくて

「ちょっと考え事してただけだ」

「なら、いいんだけど」

試合前で練習がハードになっている上に、妊娠中で身体が思うように動かない私の代わりに家事や育児も良くやってくれているから

「疲れが溜まってるんじゃない?」

心なしか、顔色も悪い気がする

「大丈夫だって」

明らかに引きつった笑顔で言われても、全然説得力ないんですけど


夕食後
 

「足が痛むのか?」

お風呂上がりにリビングで足をさすっていると、息子を寝かしつけた彼がやって来て心配そうに聞かれてしまった

「今日は公園で歩き過ぎちゃって…少し足が浮腫んじゃった」

遊びたい盛りの3歳児の相手は、妊婦にはかなりハードになってきたのはたしかだけれど

「ちょっと、見せてみろ」

ソファの前に腰を下ろしてわたしのふくらはぎを優しく揉み始めた彼の方が絶対に疲れているはずで

「い、いいよ。大したことないから早く休んで」

「おまえさ…」

わたしの言葉がまるで耳に入っていないかのように、マッサージを続けている彼が眉間にしわを寄せて切り出した

「な、なに?」

「今日のスポーツ新聞って読んでねぇよな?」

「へ?」
 
彼にとって初の防衛戦となる今度の試合はマスコミの注目度も高くて

「読んだに決まってるじゃない」

取材を受けた記事が掲載されたスポーツ紙は欠かさず手に入れてるもん

「読んだ?ほんとに?」
 
「う、うん」

驚いた顔をして立ち上がった彼が

「あれは…途中からボクシング以外のことばかり聞かれて面倒になって、適当に返事してたらいいかげんな記事を書かれちまって」

ものすごくうろたえて、言い訳めいた説明をする意味が全くわからない

「どういうこと?すごくいい記事だったじゃない」

おまけに載っていた写真も、あと十部くらい買って来ようかと思ったくらいかっこよかったし

「だから、その…おまえとの馴れ初めとか家族のこととか」

そう言えば、そんなことも書かれてたっけ

でも

「べつに間違ったことは書かれてなかったと思うけど?」

ソファの横にあるマガジンラックから取り出したスポーツ紙を広げて、わたしは首を傾げてしまう

紙面にはメインの防衛戦についての記事の下に、そこそこ大きな中見出しがいくつか散りばめられていて

『最強ボクサーをKOしたのは初恋の同級生。純愛を貫き22歳でゴールイン』

『今秋には第2子誕生。孤高のチャンピオンが見せた愛妻家過ぎる素顔』

あってる、よね?

「…おまえのその図太い神経は、俺よりアスリート向きかもな」

肩を落として深いため息をついたかと思うと

「えっ⁉︎」

軽々とわたしを抱きあげて寝室へと運んでくれる

「あのっ、さすがに重いでしょ?」

なんなら出産予定日まで3ヶ月を切ったわたしより、減量中の彼の方が体重が軽い気がして

「まぁ…な」

「ご、ごめんなさい」

思わず謝ったわたしをベッドの上に優しく降ろすと

「冗談だよ、バカ」

彼は苦笑いしながらつぶやいた

「まぁ、愛妻家がガセにならねぇようにせいぜい頑張るさ」

「えっ!?」

これ以上大事にされたらきっと、次は恐妻家って書かれちゃう

そう言いかけたわたしをそっと抱きしめた彼は

「どっちもたいして変わらねぇだろ」

触れるだけの口づけをして、幸せな夢の中へと誘ってくれた



fin



※『クッキー7月号』掲載『ときめきトゥナイトそれから』に思いっきり影響されましたタラー


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