『share 3』
予想通り
ひどく動揺しながらも、心の中でいつもの俺の冗談だと自分に言い聞かせている彼女の様子に笑いを噛み殺すので必死だったが
べつに、からかっていた…というわけではなく
「一緒に行きたいところがあるんだ、付き合ってくれるか?」
「う、うん。」
思わせぶりな俺の言葉に緊張している彼女が想像していることは、力を使って読むまでもなかった
「約束、な。」
念を押すように柔らかい頬を手の甲でなぞると、ビクッと体を震わせながらも小さく頷いた姿がどうしようもないくらい愛おしくて
学校の中庭じゃなければ間違いなく抱きしめていたところだった
そして
13日の夜
なんとかいつもより早く切り上げることが出来たバイト先から彼女を迎えに行くと
「ねぇ、どこに行くの?」
不安そうな彼女の手を取り、月明かりに照らされた夜道を歩き続けること数十分
「ここって?」
どうしても今夜、彼女を連れて来たかった場所に到着して足を止めると
「もしかして…」
そう言ったっきり黙って目の前の建物を見つめている彼女は、きっと気がついているのだろう
ここは魔界から追放された俺とおふくろが、しばらく世話になっていた修道院だということを
「小学生の頃おふくろと一緒に訪ねたきりだったから…久しぶりに来てみたかったんだ。」
二十年前のあの日、生まれたばかりの俺が見ていただろう景色をなんとなく彼女にも見て欲しかった
「そっか、そうだったんだね。」
初めて来た場所だというのに、懐かしそうな表情で佇んでいる彼女の瞳が涙で光ったような気がした
静まり返った夜の修道院の前でどれくらいそうしていただろうか
「…そろそろ行こう。」
実はほんとうの目的地はここではなく、先を急ぐ必要があり
「帰るの?」
少し涙声になっている彼女の髪についた遅咲きの桜の花びらを指先で払うと
「まだもらってねぇんだけど、肝心のプレゼント。」
そっと抱きしめ綺麗な耳に唇を寄せて囁いた
continue(次回に続きます)↓