※お察しの通り今回はホワイトデーのお話です、が…学生時代の彼にはホワイトデーを気にするようなイメージがあまりなくて(めちゃくちゃ個人の見解です💧)二転三転した結果、『cake3』の後日談になっちゃいました。それでもいいよ〜っていう優しい方がいらっしゃいましたら読んでいただけると嬉しいです照れ(おまけ部分は愛良ちゃん目線です)





                    『gift』



「おかえりなさい、今日は早いのね」

帰宅した彼を玄関先で出迎えると

「早く帰っちゃまずいことでもあるのか?」

思っていたよりもずっと機嫌の悪そうな様子に苦笑いするしかなくて

「そういうわけじゃないけど…ご飯出来てるけど先にお風呂にする?」

「いや、先に食べるから着替えてくる」

「はーい」

「あと、コレ…」

そう言って彼が差し出した紙袋はたぶん

「もしかして、バレンタインのお返し?」

そう、今日は3月14日のホワイトデー

「ただの土産だ」

ぶっきらぼうな口調で彼はそう言ったけれど、紙袋の中には綺麗なリボンが掛けられた小さな箱がふたつ入っていて

「わたしと、あの子に…でしょう?」

先月のバレンタインデーに年上の彼に作るついでに、父親にもチョコを渡していた中学生の娘はというと

「どうせアイツは今日も遅いんだろ?」

「あはは、たぶんね」

大学生のボーイフレンドとデートに行くと、朝から浮かれていたのを彼が知らないはずはなく

とはいえ

ふたりで夕食を食べている間も不機嫌そうに黙ったままなのにはさすがのわたしも辟易してしまった

「いくら娘が心配だからって、いいかげん機嫌を直してくれてもいいでしょう?わたしとふたりきりだとそんなにつまらない?」

「べつに、んなこと言ってねぇだろう」

「目が言ってる」

「…」

小さなため息をついた彼は無言で立ち上がると、どこかへ行ってしまった

もしかして怒らせちゃった?
 
でも、悪いのはあっちだもん

すっかり食欲が失せてしまって食卓を片付けようとした時

「これ…」

再び戻って来た彼が大きめの封筒を無言で差し出した

「な、なに?」

恐る恐る受け取って中を開けてみると

「旅行の…パンフレット?」

車で半日ほどかかる温泉地の旅館が載ったパンフレットが入っていて

「週末にふたりで行かないか?おまえが良ければ、だけど」

「ふたりだけで?」

「一晩くらい、あいつらだけで留守番できるだろう」

それはそうだけど

「もしかして、これもホワイトデーのプレゼントなの?」

さっき、可愛い箱に入ったキャンディもくれたのに

「いい大人にキャンディだけってわけにはいかねぇだろ」

照れくさいのか、そっぽを向いた彼がつぶやいた

「えっと、その…ありがとう。」

「礼はいいから、行くのか行かないのか…どっちなんだ?」

そんなの、決まってるじゃない

「い、行きたいです」

わたしがそう答えると、彼はようやくほっとしたような笑顔を見せた

「だから、その…機嫌が悪かったわけじゃないんだ」

「えっ?」

「なんて言って誘おうか悩んでて、ちょっと緊張してたっていうか。」

「!」

「泣くのか笑うのかどっちかにしろよ」

だって

「中学生のころと全然変わってないんだもん、そういうところ。」

「相変わらずガキなのはどっちだよ」

ふたりして顔を見合わせて笑った、次の瞬間

たくましい胸の中に優しく包みこまれていた





                 〜おまけ〜



ホワイトデーの楽しいデートが終わって家に帰ると

なぜか、制服姿のお兄ちゃんが玄関の外で座りこんでいた

「どうしたの?中に入らないの?」

「入ろうとしたら、なんかヤバそうな気配がした」

「なにそれ?夫婦喧嘩?」

「じゃなくて…」

お兄ちゃんは言いづらそうに金色の髪をグシャッとかき上げた

「あー、そっち…ね」

こっちもラブラブなホワイトデーだったってわけか

「いい年してなんであんなに仲がいいんだよ」

頭を抱えながらお兄ちゃんがため息をついた

「チッチッ!仲がいいんじゃなくって…おとうさんがおかあさんにべた惚れなんだよ、うちは」

「なんでもいいけど、温泉旅行がどうとか言ってるぞ。」

「ダメだよ、お兄ちゃん…魔力で盗み聞きなんかしちゃ」

ん?

それって、ふたりで旅行に行くってこと?

「ねぇ、年の離れた弟か妹が出来たらどうする?」

「シャレになんねぇこと言うなよ、バカ」

数分後
 
頃合いを見計らって家に入ると

「おかえりなさい、何か食べる?」

とってもご機嫌なおかあさんとは対照的に

「遅くなってごめんなさい…キャンディありがとう、おとうさん」

あたしとお兄ちゃんが外で様子を伺っていたのに気がついていたらしいおとうさんは

「あ、ああ」


バツの悪そうな顔をしてバスルームへと逃げて行った




fin