『lemon soda』




「だれか、待ってるの?」

学校の休み時間

わたしの教室の前の廊下で、壁にもたれかかるようにして立っている彼を見つけ

「おまえ意外に誰がいるんだよ」

「えっ?」

思いがけない彼の言葉に照れていたけど

「その…飴っていうか、のど飴持ってねぇか?」

顔をしかめて少し咳き込んでいる姿を見てハッとした

「風邪ひいたの?大丈夫?」

「そうじゃねぇんだけど…最近埃っぽいから、ちょっとな」

あぁ、そっか

「待って、たしかポケットに…」

季節的に雨が少なくて乾燥してるし、黄砂やなんかでわたしものどが痛くなることがあるから持っていたのど飴をあげた


翌日


「じゃーん!」

「なんだよ、それ?」

彼のアパートに持って来たのは

「ハニーレモン、作ったの」

夕べから砂糖と蜂蜜で漬けていたレモンを瓶詰めにしたハニーレモン

「あとね、炭酸水も…レモンソーダにしたら飲みやすいと思って」

蜂蜜はのどに良いし、レモンはクエン酸がたっぷりで疲労回復に効くって言うし

「…」

あれっ?

「もしかして、レモン苦手だった?」

「いや、サンキュー」

照れくさそうに笑ってわたしの頭をポンっと叩いた表情はどこまでも優しくて

当たり前だけど、リングの上で戦っている時とは違ってまるで

「どうした?作るんだろ、レモンソーダ」

「あっ、うん…氷あったよね?」

蜂蜜みたいに甘い笑顔にドキッとしたのを悟られないよう平静を装いながら

テーブルの上で大きめのグラスにハニーレモンとソーダ水を注いだあと

「わっ!」

手が滑って、蓋を閉めようとしたハニーレモンの瓶を落としそうになって
 
「あっぶね」

隣に座っていた彼が畳に落ちる寸前で受け止めてくれた、のはいいんだけど

「ご、ごめんなさい」

瓶から溢れたハニーレモンが彼の指についてしまった

「べつに、洗えばいいから」

瓶を置いて、立ち上がろうとした彼と目があった瞬間

とっさに、わたしは彼の手を掴み

気がつけば、蜂蜜のついた彼の指先を口に含んで舌で舐め取っていた

「…っ!」

驚いて固まってしまったのか、彼はしばらくわたしの様子を黙って見ていたけど

「もう、いい」

掠れた声でそう言うと、わたしの体を抱きかかえるようにして深く唇を重ねてきた

「んっ」

何も考えられなくなるほど長い時間続いた口づけから解放されると

すっかり体の力が抜けたわたしは彼の胸にもたれかかったまま、動くことが出来なかった

「氷、溶けちゃったね」

目の前にあるレモンソーダのグラスに入れるはずだった氷はボウルの中ですっかり小さくなってしまっていて

「誰のせいだよ」

眉間にしわを寄せて、わざとらしく咳き込んだ彼の照れくさそうな顔が可愛いくて

「誰のせい?」

ちょっとだけからかってしまったわたしに聞き覚えのある甘いセリフが返ってきた

「おまえ意外に誰がいるんだよ」




fin



※だいぶ前にUPしてすぐに消した『honey』というお話のリメイク(?)です🍋たいして良くもなっていませんが、娘とネトフリで『ハニレモ』見て、ついノリで書いちゃいました笑い泣き

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