『hero』



ボスッ雪の結晶雪の結晶雪の結晶

「いたっ!えっ?」

珍しく数センチの積雪があった日の朝

登校途中、背中に軽い衝撃を感じて振り向くと

「大げさなんだよ、痛くはねぇだろ」

「あっ…」

わたしの背中に雪玉を投げた犯人が眉間にシワを寄せて立っていた

「おはよう…っていうかなに?」

朝から雪合戦??

「さっきから呼んでるのに気がつかねぇから…」

「そうだったの?ごめんなさい、ボーっとしてた」

「おまえがボケっとしてるのはいつものことだろ」

「いつもってわけじゃありません」

そう

せっかくの雪景色を楽しむでもなく、わたしがちょっとぼんやりしてたのには訳があって

昨日の放課後、学校の廊下で彼が金髪の女の子にキスされているのを偶然目にしてしまったから

離れたところから見ただけだし、一瞬の出来事だったけど

「アレ、見てたのか…」

なぜかわたしのほぼ真後ろを歩きながら、彼は小さく舌打ちをした

「短期の交換留学生でしょ、あの子?」

たしか今週から彼のクラスに来てるって聞いていた

「ああ、スペインから来て英語があんまり喋れねぇらしくて…困ってたから何度か助けてやったらアレだ。」

つまり、お礼のキスだったのね

「待って、スペイン語分かるの?」

「分かるわけねぇだろ!ほら、考えてることを読んであとはジェスチャーでなんとか…大した事は聞かれてねぇし」

「そっか、優しいね」

わたしのことをいつもおせっかいだって言う彼も、実は困ってる人をほっとけないタイプなんだよね。

「そんなんじゃねーよ」

バツが悪そうに彼がそう言った直後

「きゃっ!」

雪が踏み固められた場所に足を乗せて思いっきり滑ってしまい

転ぶ!って思ったのに…あれっ?

「後ろにいて正解だったな」

彼の腕の中にすっぽりと抱きかかえられていた

「…」

「なんだよ、足でもひねったのか?」

えっと、なんていうか

「できれば、それ以上かっこよくならないでね」

「はぁ?」

「だって今よりもっとモテるようになったら…」

思わず口に出してしまった本音に彼は照れてしまったのか

「朝っぱらから寝ぼけたこと言ってねぇでさっさと行くぞ」

わたしを立たせるとさっさと先に行ってしまった

「あっ、ねぇ待って…」

再び転ばないようにゆっくり歩き始めたわたしの元に、ちょっぴり口の悪いヒーローが戻って来て大きな手を差し出して言った

「言い忘れてた。昨日のは頬ずりされただけだからな、信じるかどうかはおまえの勝手だが」

「えっ?」

柔らかな日差しに照らされて、雪はあっという間に溶けていきそうだった




fin




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