『give up』





『3つ数えるから、さっさとイエスかノーか答えろ』


受話器の向こうでため息をつきながら彼は本当にカウントを始めた

  

『3…2』


「えっ?ちょっ…イエス、行きたい!」


わたしが慌てて答えると


『了解、明日の朝迎えに行く…じゃあな』

 

満足気に電話を切った彼にちょっと笑ってしまった




大晦日の夜

 


お母さんを手伝っておせち料理の準備をしている時にかかってきた彼からの電話の第一声は


『明日、初詣に行かないか?』


突然のお誘いが嬉し過ぎて、すぐに言葉が出なかったわたしに


彼は照れくさくなったのか謎のカウントダウンを始めてしまい、焦ったと同時に思わず笑ってしまった


「ボクサーって、カウントするのが好きなの?」


翌朝、早起きしてお母さんに着物を着せてもらい家の前で彼を出迎えると


「あけましておめでとう、の次がその質問かよ。」


約束通り、朝早くから来てくれた彼は新年早々呆れたような顔をした


「冗談だってば、誘ってくれてありがとう」


「ああ」


晴れ着姿のわたしの方は見ないで、それでもしっかりと手を繋いでくれた彼と歩いて行った近所の神社はすでに沢山の参拝者でごった返していて


「わぁ、すごい人だね」 


「はぐれるなよ」


そう言ってさらにきつくわたしの手を握り直した彼にまた、心の中でクスッと笑ってしまった


これじゃあ離れたくても離れるのは無理なのに…まるで父親に連れられて来た小さな子供になったみたい


わたしの考えを読んだのか変な咳払いをした彼とお参りを済ませたあとで


「ね、おみくじ引こうよ」


「俺はいい、そう言うの信じねぇし」


「もう…」


仕方なくひとりで引いたおみくじの結果は


「嘘でしょ、凶?」  


しかも


「えっと、恋愛運は…『諦めが肝心』?」


あまりのショックに固まっていると


「ある意味すげぇな、滅多に出ねぇだろう『凶』なんて」


後ろから覗き込んだ彼に楽しそうにそう言われてしまい


「そうだよね、逆に貴重かもしれないよね?」


自分に言い聞かせるようにつぶやいて、何とか気を取り直し


「これ、どうしよう?」


確か木の枝に結ぶんじゃなかったっけ?


「記念に持ってろよ。そろそろ帰るぞ、夕べから何も食べてねぇから腹減った」


「えっ!そうなの?早く言ってくれればいいのに…お母さんと作ったおせち料理があるからうちに来て」


「サンキュー」


急いでうちに帰ってお雑煮やおせちを一緒に食べたあと、わたしの部屋でくつろいでいると


「さっきのおみくじ…」


彼がそう言って右手を出した


「えっ?これが、なに?」


わたしが着物用のバックに入れていたおみくじを出して手渡すと


「目を閉じて3つ数えてくれないか」


「へっ?」


なんでまた?


「いいから、ほらっ」


カウントフェチなのかな?


「ちげーよ、バカ」


しかたないなぁ


わたしが言われた通りに数を数えて目を開けると


「これと交換してくれないか?」


そう言って彼がおみくじの代わりにわたしの手に握らせてくれた物は


「お守り?」


さっきの神社の名前が入った可愛いピンクの鈴が付いたお守り袋で


「い、いつの間に買ったの?」 


神社ではほとんどずっと手を繋いでいたはず


「おまえがおみくじの内容読んで固まってたの、1分や2分じゃなかったからな」


「あっ」


そっか、でも


「嬉しいけど、そのおみくじ…凶だよ?」


しかも、恋愛運は『諦めが肝心』なんて書いてあるし


「いいんだよ、俺はとっくの昔に諦めちまってるから」


「えっ?」


「おまえのことを諦めるのを」


「!!」


「正月から泣くなよ…」


思わず涙ぐみそうになったわたしの頬に唇を寄せて照れくさそうに彼が言った言葉で更に泣きそうになってしまった


「おまえは着物も良く似合うな」

  

今度は何も言われなくても目を閉じて、3つ数えて優しい口づけをそっと受け取った



 


fin



※今年の5月に初めて二次小説のブログを書き始めて、思いがけずたくさんの方に読んでいただきすっごく楽しい一年になりましたキラキラ素人の下手な文章&ワンパターンなお話ばっかりにも関わらずいつも遊びに来てくださってほんとうにありがとうございましたおねがい来年もぼちぼち書いていこうと思いますのでよろしくお願いします。にあ