『change』
「よお」
秋晴れの澄んだ空気が気持ち良い朝
登校途中に後ろから声を掛けられ振り向くと、ブレザーの制服姿の彼が立っていてドキッとした
そうだった、今日から衣替えだった
「お、おはよう。今日もいいお天気だね」
「朝から元気だな」
少し眠そうな表情で髪を掻き上げる姿もなんだかいつにも増して大人っぽく見える
年齢が同級生よりも二つ上っていうのもあるけれど、やっぱり彼は高校生には見えないかも
「にしても、この制服じゃ昼間はまだ暑いよな」
そう言っていた通り
お昼休みの中庭に現れた彼は上着を脱ぎシャツも肘の辺りまでめくっていて、朝とは別の意味でドキリとした
「痩せたね」
「そりゃあ、減量してるからな」
上着を着ている時には分からなかった体のラインが数日前より明らかに細くなっている
「来週になったら更に追い込むから、今はまだマシな方だ」
そう言いながら彼が食べ始めた昼食はいつもの3分の1にも満たない量で
あらためてボクサーになる大変さを思い知らされて胸が痛くなる
でも、それが彼の夢なんだもん
わたしは…頑張っている彼を少しでも支えてあげられたらいいんだけど
なんて事をしんみり考えていたら
「やべっ」
缶コーヒーを一口飲んだ彼が顔をしかめた
「どうしたの?」
「眠気覚ましにコーヒー飲もうと思ったんだが、間違えて砂糖入ったやつ買っちまった」
そっか
減量中だから加糖のコーヒーはまずいだろうし、そもそも甘い物苦手だから普段からブラックしか飲まないもんね
「わたしの緑茶と交換する?まだ飲んでないから」
「いいのか?」
「うん、わたしはブラックは苦手だけど甘いのは平気」
「じゃなくて…」
「なあに?」
「その、口をつけたから」
まって
まさかとは思うけど彼が気にしてるのって
もしかして
もしかすると
間接キスになるから、的なこと?
いまさら!?
「笑ってんじゃねーよ」
思わず吹き出してしまったわたしに拗ねたような顔でそう言った彼は真っ赤になっていて
朝、大人っぽいって思ったはずの彼はまるで中学生のように可愛いく見えた
「誰が中学生だ」
「だって…」
一昨日の夜
送ってくれた我が家の門の前で
わたしが立っていられなくなるほど深いキスをしてくれた人と同じだなんて思えないくらい照れてるんだもん。
でも、そんなことはとりあえず置いておいて
「ごめんなさい、笑ったりして。じゃあ…交換ね」
お茶の缶を彼に渡して缶コーヒーをわたしが受け取り
「いただきます」
一口飲んだら今度はわたしまで間接キスを意識してしまい顔が熱くなっていくのがわかった
「たしかに甘いね、このコーヒー」
お互いに照れてしまい変な空気が流れるわたし達の真上には
すっかり秋の表情に変わった青空が広がっていた
fin