※今回はいつもと違い愛良ちゃん目線のお話になります(9月9日がお誕生日なので)それでもいいよーっていう方は読んでくださると嬉しいです。
『cake』
「おはよう」
月曜日の早朝
眠い目を擦りながらリビングのドアを開けると、珍しくピリッとした空気が流れていて
いつものようにソファでコーヒーを飲みながら新聞を読んでいるおとうさんの隣に座ってそっと様子を伺ってみる
「ねぇ、もしかしておかあさんと喧嘩でもした?」
「べつに…」
あたしの方をちらっと見てつぶやいたおとうさんの表情はほんっとに分かりやすくYESと言っている
「原因はなあに?」
「だから喧嘩なんかしてないって言ってるだろう」
不機嫌そうに新聞を畳んでリビングから出て行くおとうさんと入れ替わりに洗濯を終えてやってきたおかあさんはいつもと変わらないようにも見えたけど
「あらっ、今日はずいぶん早いのね。朝ご飯すぐに用意するから待っててね」
うーん、やっぱりいつもより少し元気がない…かも
「どう思う?」
登校途中
一足先に家を出たお兄ちゃんを追いかけて、何とか捕まえたので聞いてみる
「ほっとけよ、夫婦喧嘩は犬も何とかって言うだろ。どうせすぐに仲直りしてベタベタしだすに決まってる」
「うー、そうなんだけど…明日はあたしの誕生日なのに」
そう、明日9月9日はあたしの14歳の誕生日
毎年おかあさんがおいしいお料理やケーキを作ってみんなでお祝いしてくれるんだけど
「なぁ…それじゃね、喧嘩の原因」
「えっ!?」
「おまえ、明日の夕食にコーチも呼んでるって言ってただろう?」
「うん、だっておかあさんが呼んだらって言ってくれたから」
「母さんはいいだろうけど父さんは?内心おもしろくないんじゃねーの?」
「それで夫婦喧嘩したっていうの?」
そんなの嫌だよ、せっかくの誕生日に大好きな両親があたしのせいで仲違いしているなんて
学校から帰ってキッチンで料理をしているおかあさんにそれとなく聞いてみた
「ねぇ、おかあさん…おとうさんと喧嘩してるの?」
「えっ?」
野菜を刻む手を止めてこっちを向いたお母さんはちょっと驚いた顔をした
「やだ、気づいてたの?喧嘩ってほどのことじゃないんだけど」
「もしかして明日の誕生日パーティーのせい?」
「なっ、なんでそう思うの?」
やっぱり、そうなんだ
「違うの、あなたが何を思ったのか知らないけど多分違うのよ。あのね、お誕生日ケーキのことでちょっとお父さんと…」
「ケーキ?なんでケーキのことで喧嘩なんか…」
「だから喧嘩なんかしてないってば。いつもみたいにわたしが作るつもりでいたんだけど、料理だけでも大変なんだからケーキはお店で買って来るってお父さんが言うから」
へぇ、おとうさんいいとこあるじゃない
「でもね、わたしは家族のお誕生日ケーキだけはどうしても自分で作りたくって」
そっか、それで変な雰囲気になってたのか
その時
キッチンのドアの向こうから不自然な咳ばらいがして見に行くと
「おとうさん、帰ってたの?」
「ただいま、悪いが自分の部屋に行っててくれるか?」
「うん、でもあのね」
「なんだ?」
「あたしはケーキ大好きだからいくつあっても大丈夫だよ!」
おとうさんとおかあさんが顔を見合わせて笑ったのを確認してお邪魔虫は退散した
翌日
テーブルの上にふたつ並んだバースデーケーキには7本ずつロウソクの火が揺れていた
fin
※愛良ちゃんお誕生日おめでとう。
一日違いの夢々ちゃんと風くんもおめでとう。