『remember 6』
「わたしたち、ほんとに恋人同士なんですか?」
気持ちは分からないでもない
12歳の彼女にしてみたら、なんでこんなにぶっきらぼうで愛想のない男と自分が付き合っているのか不思議に思っても当然かもしれない
しかし
あらためて彼女の口からそんな言葉を聞くと何とも言えない寂しさに襲われてしまった
「その話は後でゆっくり…な。ほらっ、もう祭りが始まってるから先を急ごう。」
「…はい。」
その場を何とか誤魔化して答えづらい質問を回避する
人混みで賑わう会場にはたくさんの屋台や出店が並んでいて、彼女は目を輝かせてあちこち見て回ろうとする
「こらっ、手を離すなよ。食べたい物があったら買ってやるから。」
嬉しそうに頷いた彼女のあどけない笑顔が可愛くてかき氷にリンゴ飴、綿菓子などを次々に買い与えてしまった
「お腹いっぱいになっちゃった。」
「じゃあ、そろそろ家に帰るか?」
「う…ん」
名残惜しそうな彼女の手を引いて出口付近にやって来ると射的の屋台が目に入った
「やってみるか?」
彼女はまた笑顔で頷くだけだったが、3発で500円のコルクガンを持たせてやると真剣な顔で狙いを定めて引き金を引いている
「ダメ、当たらない。」
2発外したところで俺に助けを求めてきた
「しょうがねぇな。」
最後の一発は俺が手を添えてやって、しっかり景品の数字が書かれた的に命中させた
「お見事、この箱の中から好きなの持っていきなよ」
屋台の店主に促されて彼女が選んだのは
「きれい…」
小さなおもちゃの指輪だった
「貸してみな。」
赤いガラス玉のついたリングは明らかに子供用のおもちゃだったが彼女の細い指なら入りそうで、無意識に左手の薬指にそっと嵌めてやった
その瞬間
彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた
continue(次回に続きます)↓