『smile』





「じゃあ、またな。」


「ありがとう、おやすみなさい。」


日が落ちて彼に送ってもらった我が家の門の前で


いつもだいたい同じ台詞で別れるのだけれど


「あのっ、えっと…」


やっぱり離れたくなくて、つい彼を引き止めようとしてしまい


「なんだよ?」


「ううん、べつに…」


振り向いた彼に聞かれると言葉に詰まってしまうわたしを見て


「だから、なんだよ?」


何とも言えない顔で微笑む彼の笑顔に見覚えがある気がしてずっと気になっていた


いつ、どこで見た笑顔なんだろう?


そうだ!


思い出した…かもしれない


あれは彼が魔界人として赤ちゃんに生まれ変わった後、4歳づつ成長していって


そうそう!


4歳のまだ無邪気な彼がおもちゃで楽しそうに遊んだり、わたしがお馬さんになってあげたりした時の可愛い笑顔


あの笑顔に良く似ているのかもしれない


っていうことは


今のわたしは彼のおもちゃ?

 

「ごちゃごちゃ考えてないで、いい加減に目を閉じてくれ。」


「えっ?」


気がつけば彼の顔がわたしの顔に触れるほどすぐ近くに迫っていて


「やりにくいだろ、馬鹿。」


おもいっきり照れた表情で眉間にしわを寄せた彼もなんだかとっても可愛いくて


「目を開けてちゃダメ…?」


たまには彼の顔を見ながらキスされたいかも、なんて思っちゃたんだけど


「…却下、嫌ならこのまま帰るぞ。」


そんなにはっきり言われたら目を閉じるしかなくて


彼の腕をそっと掴んで閉じたまぶたに優しいキスが落とされた



それから



彼は珍しく派手なリップ音を立てながらわたしのおでこや頬、鼻の頭に次々とキスをして最後にゆっくりと唇を重ねてくれた


「じゃあな、今度こそ帰るからな。」


そう言って優しく笑う顔はやっぱり子供のように無邪気で愛おしくて


この笑顔が見られるならずっと彼のおもちゃでいてもいいなぁ…って


そんなことを思っているわたしは溶けそうなくらい甘い笑顔になってる気がした




fin