『morning glory』




『追試…の追試?』


電話の向こうで彼があきれたような口調で聞き返してきた


「そうなの、数学の追試でまた赤点取っちゃって…」


『今回の数学はそんなに難しくなかっただろう、一体何やってんだよ』


うっ、わたしと変わらない成績のはずの彼にここまで言われるなんて


『まぁ、せいぜい頑張るんだな。明日の夜遅くそっちに帰るから明後日の朝、学校でな』


「うん。忙しいのに電話ありがとう、暑いから体に気をつけてね」


暑さを避けて山間部にあるスポーツ施設での合宿トレーニングに行っている彼からの電話はとっても嬉しくて


本当だったらもっと甘い会話をするはずが結局わたしの頭の悪さを馬鹿にされるだけになっちゃったけど、彼の声を聞けて苦手な勉強も頑張れる気がした


そして


翌日もう後がない再追試のために早朝から学校に向かうと、日課になっている校舎横の花壇の水やりをする


クラスごとに割り当てられているスペースで育てている朝顔が今にも咲きそうなほど大きな蕾をつけているのだけれど


「まだ咲いていないのね」


なかなか咲かない朝顔はまたの楽しみに取っておいて教室での再テストを受けて


手応えは…あった、と思いたかった


結果は明日


ちょうど彼にも久しぶりに会えるし、どうか良い点数でありますように


祈るような気持ちで眠りについて


「行ってきまーす」


翌朝、家を出たところでなんと彼が門の前で待っていてくれた


「よぉ」


「お、おはよう。迎えに来てくれたの?」


「おまえの追試が気になって目が覚めちまったからな」


「えっ?」


「冗談だ。ほらっ、さっさと行くぞ」


冗談、じゃないよね?


昨日までの合宿で疲れてるだろうにわざわざ早起きして会いに来てくれた…そう思って自惚れてもいいよね?


彼が照れたようにした咳ばらいはYESの証拠


「ありがとう」


わたしの言葉には答えずに歩き出した彼と一緒に登校して


校舎の横を通りかかると綺麗な青い花が輝くように咲いているのが目に入った


「わぁ、咲いてる!」


駆け寄って見ると真っ青な朝顔の花がいくつも咲き乱れていて、感動するくらいの美しさだった


「それ、おまえが育ててたやつだろう?」


「うん、今日初めて花が開いたの。どうしよう、すっごく嬉しい」


彼は思わず涙ぐみそうなわたしの頭をそっと撫でると


「この調子で試験も上手くいってるといいな」


そう言って背中をポンと押してくれた


果たして


追試の追試はようやく及第点が取れ


まだお日様が高いうちに下校して、彼のアパートに着いた後も笑顔が零れて仕方ないわたしに


「普通は1回で終わる試験を2回も3回も受けて何がそんなに嬉しいんだよ」


彼がため息混じりに呟いたのも気にならないほど嬉しくて


「だって今日はとーってもいい日だったんだもん」


「だったって、まだ夕方にもなってねぇんだから何か悪いことが起こるかも知れないぞ」


「やだ、縁起でもない事言わないで」


彼の腕を掴んで抗議したわたしの唇に彼の唇が重なってすぐに離れた


「ごめん、ちょっと嫉妬しちまったんだ」


「嫉妬って、数学の追試に?」


「…つくづく頭が悪いやつだな」


「えっ?じゃあ、何に?」


今度はきつく抱きしめられて耳元で優しく囁かれた


「おまえが大事にしてる朝顔に…だよ」


彼の肩越しに見えた窓の外には朝顔と同じくらい綺麗な青空が広がっていた




fin

 



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