『shooting star』





「あっ!」


彼のアパートからの帰り道


ふたり並んで歩きながらわたしのおしゃべりに彼が相槌を打っていたのだけれど、沈黙が訪れた瞬間に流れ星が夜空に光って落ちた


「残念、願い事を言う時間が無かったね。」


「どんな願い事があるんだよ?」


ちょっとあきれたような口調で彼に聞かれて


「それは、いろいろと…」


彼が長年の夢であるプロボクサーになれますように、とか


「でも流れ星が消える前に3回も願い事を唱えるなんて難しいよね?」


「俺は…んな事するより自分の力で欲しい物は手に入れたいけどな」


独り言のように呟いた彼の言葉にドキッっとした


そうだよね、流れ星に願い事を叶えてもらおうなんて他力本願だよね


帰り着いた我が家の前で黙って俯いたわたしの頭をポンと叩くと


「まぁでも、自分の力じゃどうしようもねぇ事は神頼みしたくもなるけどな」


そう言って彼はいたずらっぽい笑みを浮かべた


「それって、例えばどんな事?」


「誰かさんが玉ねぎが食べられるようになりますように、とか」


「もう!今はちゃんと食べられるようになったのに」


昔よりは、だけど


「じゃあ、今度試してみるけどいいのか?」


へっ?試してみるってどういう事?


答えは次の日曜日に判明した


「カレーライス、作ってくれたの?」


彼のアパートを訪れると美味しそうな手作りカレーが用意されていて


「俺が食べたくて作ったんだけど、さすがに一人分だけ作るのは難しいからな」


「ありがとう、嬉しい」


「味は保証出来ないけどな」


彼はそう言ったけれど、お世辞抜きにとっても美味しくて驚いた


あれっ、でも待って


「これ、玉ねぎ入ってた?」


それらしい物が見当たら無かった気がするんだけど


「ちゃんと入れたよ、みじん切りにしたけどな」


照れくさそうに視線をそらした彼に思わず笑ってしまった


「ちゃんと食べられるか確かめるんじゃ無かったの?」


「言っただろ、自分の力で何とかしたいって」


なんだか、ただただわたしに甘いだけの気がする


「ありがとう、ごちそうさまでした」


今度流れ星を見つけたら、やっぱり願い事をしてみたくなったじゃない


『また彼の手料理が食べられますように』って





fin

 





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