『hourglass』




「わぁ。」


放課後、お友達に誘われて行った街外れのアンティークショップ


「安くてお洒落な雑貨がたくさんあるの。」


そう聞いていた通り、広くはない店内にはところ狭しと綺麗なアンティーク商品が飾られている


その中でもわたしが1番気になったのが銀の支柱に囲まれた丸いフォルムのガラスにブルーの砂が入った砂時計


お値段も手頃だったし店員さんの「それ、1点物なんですよ」の一言が背中を押した


「で、衝動買いしたって訳か…」


その足で彼のアパートに寄り、バイトを終えて帰って来た彼に見せたらこの冷たい反応


「砂時計なんてカップ麺作る時以外に使い道ってあるのか?」


うっ、それを言われると


「3分なんだろ、それ?」


「うん。」


彼は砂時計を手に取りひっくり返して砂が落ちるのをじっと見ている


「普段は3分なんてあっと言う間なのにな、試合の1ラウンドは長いんだよな。」


ボソッと独り言のように彼がつぶやいた言葉に胸がズキンとした


そうだった


たったひとり、逃げ場のないリングの上で過酷な闘いをする3分間はどんなに孤独で苦しい時間なのかわたしには到底分かってあげられない


「こらっ、違うって。」


しんみりと考え込んでしまったわたしの頬を彼はそっと手の甲で撫で


「別に深い意味はねぇよ。おまえの悪い癖だ、何でも深読みし過ぎるな。」


そう言って砂時計を手渡してくれながら軽くため息をついた


それでもまだ胸の鈍い痛みが消えなくて


「ねぇ、この砂時計の砂が落ちる間抱きしめてもいい?」


「は?」


「ダメ…かな?」


驚いた表情で彼は黙ってわたしの顔を見つめていたけれど


「ダメだ。たった3分じゃ…な。」


そう言って再びわたしから砂時計を取り上げるとそっとテーブルの上に転がした


次の瞬間


わたしは彼の胸に抱かれ唇を重ねられていた


優しくわたしの体を包み込む腕は、確かに3分では解かれそうにはなかった




fin




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