『first kiss 6』





彼女の口からようやく聞く事の出来た話は、やや想像の斜め上を行っていたものの恐れていたような他の男に傷つけられたというような類のものではなくホッとした


と同時に湧き上がった何とも言えない苛立ちは他ならぬ俺自身に向けられたものだった


もっと早くに俺が自分の気持ちに素直になっていれば彼女が戸惑うような状況下ではなく、普通の少女が経験するような甘酸っぱい思い出となるキスをしてやれたのかもしれない


が、今さらそんな事を言っても過去を変えられる訳ではない


どうすれば彼女の気持ちを納得させてやれるのかを考えてある事を思いつき、部屋から出ようとした彼女をその場に留めて明かりを消した


ベッドに腰掛けさせた彼女の足元にひざまずいて彼女の手を取り願いを告げる


「俺が人間として最後に見た夢を再現して欲しい。」


「えっ!」


「覚えているところだけでいい。思い出したいんだ、あの時の自分の気持ちを」


不安そうな彼女を立たせて出来るだけ明るい声で「スタート」と言うと、彼女も静かに頷きあの日俺の夢の中でしたのであろう告白を始めた


「わたし人間じゃないの。気持ち悪いよね、不気味よね。でもね、嫌わないで欲しいの……好きなの、いけないことなの?」


聞いているだけで胸が締め付けられるような言葉が続き、最後は両手で顔を覆い泣きじゃくり出した彼女を抱きしめそっとキスをした


「おまえ、おかしいぞ」

 

「!」


あの日のセリフを口にした俺を驚いた顔で彼女が見つめている


「ありがとう、思い出した」


そして俺たちは何度目か分からなくなったファーストキスをゆっくりと交わした





fin