『rain』




「今日はバイトは無いから」


お昼休みにそう聞いていたから急に降り出した夕立の中、彼をジムまで迎えに行くことにした


途中で何人もの可愛らしい小学生とすれ違い、思わず見とれしまう


色とりどりの傘に大きなランドセル


雨降りでも子供たちは元気にはしゃぎながら下校している


「迎えに来てくれたのか」


ぼんやりしていたらいつのまにか彼がジムから出て来ていた


「お疲れ様、傘持ってないんじゃないかと思って」


家から持って来たお父さんの傘を彼に手渡して並んで歩き始める


「サンキュー」


彼と一緒に歩く時の沈黙は嫌いではないけれど、今日は何となく会話をしたい気分だった


「ねぇ、小学生の時ってランドセルは黒だったの?」


「まぁ、そうだけど」


「後で写真見せてもらってもいい?」


「入学式のならあると思うけど、何でそんなもんが見たいんだ?」


「さっきすれ違った小学生の子たちを見てたらすっごく可愛かったから」


「言っとくけど、俺がガキの頃は別に可愛くねぇぞ」


そう言った後、彼は突然立ち止まった


「おまえは…ランドセル背負った事無いんだろ?」


「えっ!?」


彼にそう言われてあらためて小学校に行った事が無いのを思い出した


もしかして、そんなつもりは全然無かったのに彼に気を使わせてしまった?


「う、うん。ずっと家でお父さんに勉強見てもらってたから」


紫陽花が満開の公園、雨はもうほとんど上がっていた


彼は自分が持っている傘を畳みわたしの傘を手に取ると相合い傘にしてまた歩き始めた


「小学生の時からケンカばっかりして友達もあんまりいなかったから」


「う、うん…」


「おまえが学校にいたら、もう少し楽しかったかもな」


「えっ!?」


驚いて隣の彼を見上げると恥ずかしそうに視線を逸らして空を見ている


「雨、やんだみたいだな」


うっすらと虹が架かった公園の片隅


淡いピンクの傘に隠れて


雨の代わりに優しいキスが降って来た




fin